「初体験・万博編」 第二話(最終回)
「そうね・・・辛い思いをしたからなかなか踏み出せないの。雄介くんみたいな子だったら・・・年下でも仲良く出来るって思うけどね。ゴメンなさいね変なこと言って・・・今は彼女さんと仲良くしているのにね」
「彼女ね、僕とホテルに行った晩父親に酷く叱られて家出したんですよ。もう死にたいって電話が掛かってきて・・・実際にはおばあちゃんの家に泊まったんですが、本当に心配しました。それ以来向こうの両親からも公認になって交際しています。俺の両親も応援してくれているから本当に今は幸せなんです」
「そう!そんな事があったの・・・あなたへの強い想いが彼女さんを動かしたのね。女っていざとなったら強いのよ。あなたも解ったでしょ?」
「はい、よく解りました」
「本当は私なんかとこうして逢っていてはいけないのよね・・・雄介くんがなんだか遠い存在になってゆく気がした・・・仕方ないけど」
「僕の中では香奈枝さんは初めての・・・人なんです。その想いは変わりません。どうしたいのか解りませんが、佳恵とも香奈枝さんとも仲良くしたいです」
「あらあら、勝手なこと言って!男の人ってそういうところがあるからいやなのよ。浮気はその時はいいけど後で必ず後悔するのよ。私との事は胸に仕舞って忘れなさいね解った?」
「そうしたいけど・・・今はそうなれない」
心斎橋を降りて商店街を南に向かって歩き出した二人はそれとなく手をつないでいた。
「雄介くん、私はいけない女ね。あなたに注意しているのにこうして手をつないでいることが嬉しい・・・前の時は無しにして今日が最後にしたい。雄介くんの事はあの時からずっと好きになっていた・・・でももう彼女さんの話を聞いて離れなきゃって決心した。忘れさせて!わがまま聞いて、お願い・・・」
「香奈枝さん・・・どうすればいいのですか?」
「食事を済ませたら・・・私の行くところに着いて来て。何も言わないでいいから・・・」
香奈枝は心のうちから熱く雄介に対する想いが湧き出てくる欲望を抑えきれなかった。自分に今日が最後だと言い聞かせるようにして、ネオン街の方向へと雄介を導いていった。前の時とは違って香奈枝は雄介の行為に十分な満足が得られた。
「雄介くん・・・ありがとう。とっても良かったわ・・・彼女さんを幸せにしてあげてね。こんなことしておいて言うことじゃないけど・・・ごめん」
「うん・・・香奈枝さんの事は絶対に忘れません。早くいい人見つけて幸せになってください。俺だって言えるようなことじゃないけど・・・」
「ありがとう・・・ねえ?もう一度・・・お願い・・・」
香奈枝の悦んでいる顔の裏側には淋しく辛い想いが潜んでいるんだろうと雄介は思った。佳恵のことが好きだけど今、目の前にいる香奈枝の事は好きと言うより甘えたい存在の人に感じられた。自分の弱さや情けなさを全て吐露できるそんな包んでくれるような女性なんだと・・・
心斎橋のホームでさようならをした雄介は、もう二度と香奈枝とは逢えないだろうと悲しくなった。香奈枝も同じように感じていたのだろう、雄介が手を振って見送ってくれている表情が涙でかすんで見えなかった。
次回「初体験・北海道旅行編」 第一話に続く。
作品名:「初体験・万博編」 第二話(最終回) 作家名:てっしゅう