そらのこと
すがすがしい風と共に、雨上がり特有の日に浴びた空気が全身を包んだ。
公園へ向かった。
いつものコンクリートは雨の溜まりをところどころにつくり、くぼみがわかった。
僕はそれをよけて歩く。
階段をおりる。
見おろす緑は、キラキラと目に映る。
視線を少し上へうつせば、町が見える高さだ。
風はビュウと階段を這い上がる。
おりると公園は目の前だった。水滴をたたえた遊具をながめた。
誰もいない。
濡れている遊具は、ただそこにオブジェとして存在していた。
触れられない唯一のときだ。
僕はブランコに向かう。
そこには、1人の子どもが先客としてすわっていた。
濡れているイスを気にとめず、ただ、すわっている。
僕はちょっと笑って、子どもの背にまわった。
子どもはすこし振り向くと、ブランコの鎖をつかむ。僕はその子の背を押した。
ギィコ、ギィコ...揺れるたび、水滴がポロポロはがれる。
「ぼくは空の子なんだ」
子どもは唐突に言った。僕は背を押しつづける。
「はじめて来たんだ、この場所。むかしはこんな所、みんな存在するとは思ってなかったんだよ」
僕はぼんやり耳をかたむけた。
ギィコ、ギィコ...鳥がはばたく音がした。やけに透きとおって聞こえた。
「幻想は、ぼくの中で実体となった」
「そう。明日が見えぬことと同じ。でも、知る時は必ず来るんだ」
「今日があれば」
「うん、今があれば」
お互いに笑った。
子どもはピョンと跳び、ブランコをおりる。
「それじゃあね」
子どもはそう言うと、僕の前から見えなくなった。
空を見上げた。
空の果てを想った。
見えた気がした。