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舞うが如く 第六章 1~3

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 指揮官が、琴と八重を残して立ち去りました。
垣根のように取り巻いていた兵士たちも隊列を崩して四方へと散りはじめます。
そのうちの一人の武者が、琴に近寄ってきました。
まだ若く、腰に帯びた太刀の様子がどこかで剣客ぶりを漂わせています。


 「最前のお話ですが、
 兄上と言うのは、法神流の中沢殿のことでしょうか。」



 「いかにも。
 良之助は我が兄にあたります。」




 「私も、その中沢氏に、
 一命を助けられた者のひとりです。
 私は長州の藩士にて、名を高柳勇乃進と申す剣士です。
 剣技には少なからぬ自信が有りまして、武芸に秀でる長州藩においても、
 いちにを争うと常より自負をいたしておりました。
 庄内領においての戦乱のおり
 たまたま、兄上と剣を交える機会がありました。」




 「兄と、・・・」

 

 「ものの見事に、あしらわれました。
 簡単に、我が太刀を打ち落とされて決着がつきました。
 格段の腕の相違がありました。
 ついに万事が尽きたものとして、潔く覚悟をいたしましたが、
 くるりと背を向けて立ち去ってしまいました。

  覚悟はできているゆえに、早くにとどめを討つがよいと叫びますと、
 中沢氏は振り向きざまに、命を無駄にやりとりしている場合にあらず、
 優劣がつけばそれでよしとする、
 無益な武士道のために、あえて命を落とすにはおよばず。
 助かったそなたの生命はこれよりは、
 本気で、新しい日本のためにこころして働くがよい。
 そう申しておりました。
 あたらしき時代の武士の存念、感服の至りでした。」


 
 「兄がそのようなことを・・・」



 八重が、横あいから若者に尋ねました。
「先ほどの指揮官どのの、お名前は?」



 「先ほどの方は、
 会津方面隊長の総参謀で、山縣(やまがた)有朋さまにございます」

 「あのかたが、山懸有朋さま。」


(4)へつづく