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Ecarlate

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#sept



 どうにかこうにか兵士を撒いて、ロイとエドワードは建物と建物の間に身をすり込ませた。しばらくはお互い、上がった息を落ち着けるのに必死で、言葉もない。
 …先に平静を取り戻したのは、ロイだった。
「…まったく、…何しに来たんだ?君は…」
 エドワードは荒れる胸を押さえつつ、不貞腐れたような表情でロイを見上げた。彼は壁に寄りかかり、困ったような顔をしてエドワードを見下ろしていた。
「…。………」
「黙っていてはわからない」
「……。あんたが、」
 ロイは、ようやく口を開いた少年の声を良く拾おうと、腰を落とした。エドワードに並んでしゃがみこみながら、彼は黙って続きを待つ。
「…だって、あんたが。…オレのこと、ガキ扱いするから」
「……?」
「…そりゃ! …オレは、別に…中佐とか、中尉みたいに、あんたの仲間とか…そんなじゃないけど。…でも、…でも、いいじゃないか。…オレはあんたに都合悪くなることなんか、誰にも言わないのに…」
 エドワードの語尾は段々力弱くなっていき、とうとう彼は、壁に背を突けたまま膝を抱え、その間に頭を軽くうずめるようにしてしまった。
「…鋼の…」
「…どうして、オレのこと、信じてくれないんだ」
 ぽつりと小さな批難が夜の中に落ちた。
 遠くからはまだ警報が聞こえるが、…遠い場所だ。
「………まったく、」
 随分長い時間が経ったようにエドワードは感じたが、実際はさほど長い時間でもなかっただろう。ロイの手が、不器用に隣にしゃがみこむエドワードの頭を撫で付けた。
「…馬鹿だな、…おまえは」
 馬鹿と口にしつつも、ロイの声は随分とやさしげに聞こえたものだった。だから、エドワードは、恐る恐る顔を上げ隣を伺う。
「…そんなことで、…エカルラートのことを調べていたのか?」
「…。よくわかんねぇ…でも、そうなのかもしれない」
「…本当に、ばかだな…」
 ロイはそう言って目を細めると、くしゃり、と少年の頭をかきまぜる。
「…私達が言わなかったのは、…別に君を子供扱いしていたからではない」
「…。じゃあ、なんだよ」
 どうせ信じられないし戦力にもならないからだろ、とじっとり睨みつければ、違うよ、とロイは静かに、潜めた声で返した。
「………。…真実を、知りたいか?」
 もったいぶったロイの口調に、エドワードはかすかに眉を顰める。しかし、結局は頷いていた。
「…なぜ?」
「…なんでって…、…なんでそんなこと聞くんだ」
「いいから。鋼のは、なぜそれを知りたいんだ?それが答えられたら、すべて話してやろう。約束する」
 ロイは淡々と答えた。そして、真っ直ぐに少年の金色の目を見つめる。
 それは随分と真摯なまなざしで、正直、エドワードは落ち着かない気持ちになった。
「…たい、」
 呼ぼうとした声が途中で止んだのは、ロイが予告なく手を伸ばしてきたからだ。思わず止まってしまった言葉に言及することはなく、彼は、その大きな手でエドワードの頬にそっと触れた。
「…なぜだい?」
「…っ…」
 なぜか、…心臓が割れそうなくらい早鐘を打つ。
 間近な場所から顔をのぞきこまれて、黒く深い色を宿した瞳にじっと見つめられ、…逃げ出したくなった。
「…だ、だって、あんたが…っ」
 エドワードはぎゅうっと目をつぶった。小さな声は震えている。
 ―――知りたくなかった。
「…だってあんたのことが気になるから…あんたがオレは好きだから気になるし信じてもらえなかったらくやし、」
 最後まで言うことはできなかった。
 ロイが、言わせなかったのだ。
 突然想像よりもずっと広くたくましかった胸に強く抱きしめられ、エドワードの息が止まる。心臓が痛いほど早く脈打っている。きつく目を閉じても、その向こうには人の…ロイの温度を感じる。いたたまれなくて、逃げ出したくて、でも体は凍りついたように動けなくて…。
「…降参だ」
「…?」
「私の負けだ。…エドワード」
「…!」
 顔を上げようとして、押し留められる。程なくして、頭の天辺に暖かい気配。
 …ロイが、小さな子供にするように、キスをしたのだ。
「すこし長い話になる。いい子で聞いているんだぞ」
「……。やっぱりガキ扱いじゃねぇか…」
 ロイが顔を上げさせてくれないので、その胸に顔をうずめたまま口を尖らせれば、わずかに笑った気配がしてもう一度頭の上に口付けが落とされた。
 それはそんなに腹立たしくないどころか、どこか嬉しくさせるものだったので、結局エドワードは口をつぐんでいたのである。

 士官学校の入学前、今ではなくなってしまったが予科入学制度というものがあって、それを利用してロイは東方司令部に短い期間在籍していた。士官学校の準備学校のようなものだが、実際の軍部での実習を含むそれは、本気で士官学校を目指す者もそうだが、士官学校には入れないが(士官学校は入りたいといって入れるものでもなかった)軍人を目指す者などが体験入学のような形で利用する。ロイがエドワードくらいの頃、試験的にそういった制度が導入されていたのだ。結局、その制度は今では廃止されてしまっているわけだが。
 とにかくそういった制度があり、ロイはそれを利用して、軍部にやってきた。そこでヒューズと知り合ったのだという。そして…。
「―――東方司令部には、当時、お姫様がいたんだな」
 しっかりとエドワードを抱きしめたまま、ロイは幾分面白そうに囁いた。
 それは単純に、声を潜めなければいけないからなのだが。
「…お姫様?」
「そう。…今も健在でいらっしゃるが、東方司令部の総司令官である中将閣下にはお孫さんがいらしてね」
「…孫」
「そう。お嬢さんだ。お嬢さんはゆえあって祖父である将軍閣下に育てられ、…司令部を遊び場に、大の大人の軍人達を遊び相手にして大きくなられた」
 ロイは、時折思い出したようにエドワードの頭や背中を撫でる。寒くないように、そんな仕種に思えた。
「…物心つくころから銃火器の扱いを覚えた、まさに戦闘の申し子とでもいうべき存在だ。生粋の、軍のお姫様だな。…予科に入るためにやってきた我々にとっては衝撃だったさ。何しろ、射撃で彼女が的を外すのを見たことがなかったからな」
「……それって、もしかして…」
「そう。鋼のも、よく知っている人だ」
 エドワードは先ほど見た「怪人」のことを思い出す。
 あれは、あの人は、では…今回装ったのではなくて…。
「…『エカルラート』は、彼女が考え出したことなんだよ。我々は、要するに彼女の下僕だな」
 何が面白いのか、ロイはそこでひそやかに笑った。
「…鋼のはどうやらエカルラートのことをよく調べたようだから、説明するまでもないかもしれないが…。最初の事件で攫った女性は、彼女が姉とも慕う女性だったのだよ。その夫という人も東方司令部の軍人だったからな」
「……え…」
「男だらけの中で育てられた『プリンセス』だ。どれだけ慕っていたのか、察するに余りあるが…その姉とも思う女性が、夫を亡くしたばかりでなくその上官に…まあ言いづらいことだが強引に…その、囲われることになってしまって、赦せなかったのだろうな」
 ロイは困ったように笑った。
作品名:Ecarlate 作家名:スサ