笑ミステリー 『女王様からのミッション』
鞍馬山への思いが高まってきているのだろうか、クラマはほんのりと頬を紅く染めている。そして一言ぽつりと呟く。
「行ってみたいなあ」
高見沢はなんとかクラマにその望郷のような思いを実現させてやりたい、そんな感情がどんどんと膨らむ。そして、ウン・ドン・コン、その運に一発賭けてみようと思った。
「クラマさん、京都へはいつ来て頂けますか?」
高見沢は真っ直ぐに尋ねた。
「仕事の方はいつでも都合付けられるのですが、近々にでも……、この青バラをもっと見てみたいし、卑弥呼女王にもお会いしたいし、だって、こんなに胸がワクワクするのって、私の生涯の中では初めてですもの」
クラマは柔らかな微笑みを湛(たた)える。こんな反応を確認して、高見沢は男の一押し、つまり勝負に出る。
「善は急げですよ、今から京都へ行きましょう!」
「今から?」
高見沢のあまりの勢いにクラマの感情が揺らいでいるようだ。そして少し考え込んだ後、そのグリーン・アイズを大きく見開いて、「よろしくお願いします」とクラマが思い切った返事をしたのだ。
高見沢の生まれて初めてのナンパ。これはビギナーズ・ラックだったのか?
こんな急展開が自分でも信じられず、びっくり仰天。そしてなによりも、これでマキコ・マネージャーに威張られずに済むと思うと本当に嬉しくなってくる。
そんな達成感の中で、高見沢は吉祥寺のグリーン・アイズの女性・クラマを連れて、京都へと急遽引き返すのだった。
新幹線の中から、高見沢はマキコ・マネージャーに電話を入れる。
「高見沢さん、仕事結構ちゃんとやるじゃん。グッジョブよ」
マキコ・マネージャーからお褒めの言葉を頂いた。しかしその後に、管理者らしい厳しい注意が。
「高見沢さん、ビール飲むの控えなさいよ。あなたはアルコールが入ると理性が緩んじゃう人だから。途中でクラマさんに、変な気を起こさないようにね」
高見沢はこんな言い草に、またまたムカッときた。しかし疲れていて邪魔臭いのか、ここは「了解!」といつになく素直に返事をする。そしてクラマを連れて、夜十時過ぎに無事京都駅に到着した。
すでに夜も遅く、京都駅はもう閑散としている。高見沢は途中で予約しておいたホテルにクラマを送り届け、そして引き上げた。
こうして高見沢のミッション遂行。そう、グリーン・アイズを持つ女性のナンパ、それは幸運にも成功裏に終わったのだった。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊