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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『暴かれた万葉』 3

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『暴かれた万葉』 3


祠焼失事件から数ヶ月経ち、季節が秋に入ったばかりの或る朝、萩の花が満開の

「万葉公園」を見回っていた市の職員が、歌碑の前に蹲(うずくま)る人影に気付いた。

(こんな朝早くから、随分と熱心な人だな)

背後に近付いても、振り返りもせず、挨拶もなく、只、冷たい歌碑に額を付けている。

余程、強い近眼か、或いは弱視なのか、それ程密着しては焦点が定まるまい

と、思いつつ横顔を注視して、驚いた。

顔面蒼白、しかも白目を剥いている。

生きているか、死んでいるのか、確かめるより前に、震えながら携帯で百十番した。

十分余り待って、警察車が遣って来た。

隣のK市の刑事一課の者だと言う。


後刻、死因は薬物中毒による窒息死と判定されたが、胃壁の糜爛状態が微弱ゆえ

他殺の可能性高しとして、捜査本部が設置された。

尚、被害者は地元の住人、麻倉幸三、五十六歳であった。

山の上の畑地の真ん中に密集して建てられた、狭い市営住宅に一人で住んでいた。

職業は、表向き会社員と自称していたが、実際は定職がなく、パチンコ屋に出入りして、

飢えを凌ぐパチプロだったらしい。


                  続