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寝言

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「なあ」
 「……」
 「なあ」
 「……」
 「なあってば、起きてんだろ」
 「いいや、寝てるよ」
 「そうか。じゃあそれは寝言ってことか」
 「その通り。だから今こうして、会話が成立してように見えるのは偶然だからな」
 「面白い偶然もあるもんだね。人生こんなことばっかりだったら面白いのにな」
 「そうだな。本当そう思うよ。それと話は変わるけど、俺は明日朝早いから寝ていたいんだよ。お前が話してたら、俺が起きるかもしれないから静かにしてくれないか」
 「でも今はまだ寝てるんだから大丈夫だよ」
 「大丈夫かどうかは、俺が決めることだと思うんだけど」
 「心配すんな。俺は大丈夫かどうかを決めるのが大得意だ」
 「意味がわからないし、問題はそこじゃない」
 「大丈夫だ。俺は問題を選ぶのが大得意だ」
 「とりあえず黙れ」
 「すいません」
 
 「……」
 「……」
 「なあ」
 「……」
 「なあ」
 「……」
 「なあってば、寝てんだろ」
 「いいや、起きてっ……あ」
 「ほれみろ、やっぱり起きてるんじゃないか」
 「この野郎。なんでそうまでして話しかけてくんだよ」
 「俺はただお前と話していたいだけなんだ」
 「やめろ、気持ち悪い」
 「そういうなって。俺はただお前と話して、眠りを妨げたいだけなんだ」
 「殺すぞ」
 「ごめんなさい」
 
作品名:寝言 作家名:ト部泰史