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洋琴奇憚

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社会人になってからというもの、職場以外の交流がなく、ピアノは一生続けるものと思っていたわりには孤独感満載だったので、うれしいことだった。理系だと、音楽は実にマイナーな扱いを受ける。ごく普通の人たちが、こんなにたくさん熱心にピアノを弾いていて、こんなに熱く音楽を語るとは思っていなかった。共通の宝があるだけで、人の距離って縮まるんだ。
ももこさんとは絵の話で気が合って、今度美術館に一緒に行くことになった。なかなか丁寧な感じの人だ。まりえさんがいないので、さびしいかも知れない。

晩春の一日、レオノーラとももこさんは横浜に絵を見に行った。
見ながら判明したことだが、彼女の親類が私の知人だった。
春の練習会の後、何人かがSNSのコミュニティを突然やめてしまった。いつの間にか半分ぐらいになっている。どうしたんだろう。
と思ったら、ももこさんのほうから話をしてきた。どうもなにかあったらしい。聞きたいわけじゃないけど。あのエチュードの男性と二人で会ったらしい。そうしたら、他のメンバーに知られてしまい、止めてくれと言われたと。ほかのメンバーっていうのが、既婚者の女性で、絶対不倫してるというのだ。でも彼女は確か妊娠してたはず。しかもご主人との4人目のお子さんではないの?
きょうは彼女いろいろ話をする。実はバツイチだとか、離婚したときに、音大に行った友達がピアノを弾きに来てくれて、感動してまた自分も弾き始めたんだとか、離婚してからは、派遣で仕事をやっているけど、すぐにダメになる、とか。
まりえさんは結婚されることになったそうだ。相手の方は音楽はまったくなさらないということで、ちょっとピアノはお休みをしているということだった。
『ショパン王子とはお食事に行ったりしたんですよ。だって、とっても素敵なピアノ弾くじゃないですか。絵も誘ってくれたし、ピアノのコンサートも誘ってくれんです。いろいろくわしくて、すごいなと思って。うまくいったら横浜夫人ですよ、横浜夫人。それで、いろいろメールとかしてたんですけど、いつメールしても返事がすぐ帰ってくるんです。これって気があるってことですよね。夜中の一時とかに日記書いてたりして、ネット中毒じゃないのかと思うけど、どうなんでしょう。
だけどなんだかこのところおかしいの。返事がなくて。変ですよ。あのまゆさんとか、妊婦なのに、きっとつきあってるんですよ、彼と。不倫だわ。しかも、あこさんとふたりで、わたしのこと○子とか言って日記に書いたの。ひどいと思いませんか。
それに、たろうさんにもお寿司に誘われたんですよ。築地の。そしたら、いきなり、僕豊洲にマンション持ってて、て言うんですよ。どういうつもりなんでしょうね。ごめんなさい、でしたけど。』
ショパン王子というのは、あのエチュードを弾いていた男性のことだ。素敵なピアノ、と彼女は思ったのか。見解の相違ということにしておこう。難曲を弾くから良い演奏になるわけじゃない。たろうさんは、20台とお見受けするあまり話さない男性で、レオノーラは名前を言われても直ぐに顔が浮かばなかったぐらいおとなしい人。レオノーラは、婚活以外、を第一条件にサークルを探したのに、ここも管理人が婚活目的かと思って、ちょっとげんなりした。
それにしても、なんかちょっと変な話かも。世に名高いコンカツトラブルか?他の人にも事情を聞いてみよう。

差出人 maimai@dokomo.ne.jp
受取人 Leonora@fmail.com
subject:オンディーヌのこと
レオノーラさん、連絡ありがとうございます。まゆです。
いつのまにかサークルから消えてしまってごめんなさい。実はももこさんとの間にどうも誤解ができてしまったのです。ある男性メンバーにももこさんが接近を試みたようなんですが、そのことで彼から相談を受けました。コンサートのチケットを取ってきていて、一緒に行ってくださいとか、その前に絵とかいかがですか、とか、挙句に食事も予約してたと。断ったつもりだったけど、全然通じてなくて、結局コンサートまで行ったらしいのですが、その後も十分おきぐらいのメールがきて困っていたのです。ちょっとストーカーみたいな感じでした。
それで、メールは控えてほしいみたいですよ、とやんわり伝えたら、すごい反論メールがたくさん届くの。すごい内容なので、びっくりして、あんまりなので、メールはお断りしました。
彼女、他の男性とも食事に行って、突然、わたし困りますとか言ってお寿司だけ食べて帰ったそうです。自分から誘っておいて、それはないでしょう、と思いましたけど。
わたしはもうあちらのサークルに行くことはないですが、レオノーラさんもしよければわたしの地元のサークルに来て下さいね。SNSのほうでわたしのサークルとかに連絡をとらないほうがいいと思います。知られるのはちょっと避けたいです。HPご案内しますので、メールで直接ご連絡いただければご案内します。ではまた。

差出人 maako@fmail.com
受取人 Leonora@fmail.com
レオノーラさん、お久しぶりです。あこです。
サークル辞めてしまって、なかなかお会いすることもできなくなってしまいました。もしかしたら、まゆさんから少し聞かれているかもしれませんけど、ももこさんの妄想としか言いようがないんですけど。でも通じないし。今回のやりとりで2月のボイスのことを、今更蒸し返して、 私とまゆさんで攻撃した、とか、まゆさんとショパン王子が不倫をしている、とか、とんでもない話に発展していました。もう完全にスルーしました。
ベートーヴェンのお話はもっともっと聞きたかったですよ。まゆさんのサークルに来て下さるとうれしいです。

なるほど。妄想コンカツね。ありがち。バツイチだし。
まゆさんたちとは気があったし、結構深い音楽トークができるのだから、友達でいたい。でも彼女のサークルは都下でちょっと遠すぎて行けないなあ。
あまりSNSの人たちとメールのやり取りとかしていないから、わからなかったけど、仲のいい人たちはいろいろ情報交換が盛んなのだろうか。ふつうの友達関係とはちょっと違うような気がするけれど。

夏が来た。
相変わらず忙しくて、まったく新曲が進まないので、サークルも気が進まなかったけど、ももこさんが連弾をやりたいというので簡単な編曲ものをやることにした。自分は持ち曲のショパンノクターンとベートーヴェンソナタの続きを弾いた。次は11月に、サークル一周年ということで、ももこさんは何か企画を考えているらしかった。
この日は、ももこさんのお友達という方が数名来ていて、お一人はとても素敵なピアノを弾いてくれた。あきこさんというその方は、こっそりきいたところ、音大を声楽で出て、大学院はピアノで、そのあと留学していたということだった。めっきり音質が違ったもの。
作品名:洋琴奇憚 作家名:夕顔