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授業中

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授業をしている彼とは、目が合わない。
教室全体を見て話すのに、なぜか目が合うことがないのだ。私が見ていないわけではない。むしろ、ノートをとることもせずに、彼のすっと伸びた背筋を見つめている。授業中話をする人を見るのは当たり前だ、という建前で大好きな彼を見つめることができる。きっと彼と視線が合うだろうと期待しているのもあるけれど。とにかく、私は彼を見ているのだ。
だというのに、彼を目が合わないのは何故?
彼の視線は,黒板を見て、生徒達を見て、それから時折手元のノートへ。その瞳の向かう先を私はいつだって見ている。
彼は平等になっている。私を見ないのではなく、私を「生徒」という単位を使って見ている。その状態で彼と目が合っても、私は満足できない。「私」を見てほしいのだ。「生徒」ではなくて。
彼が「私」を見ているか見ていないかなんて、簡単に分かる。だって、私と目が合っていないのだもの、当たり前だわ。
でも、黒板に書かれたものを生徒達がノートに写して、彼らより一足先に書き終えた彼は、私に視線を向ける。ちら、と私を向けて、ノートをとらずに彼を見つめる私と当然のように目が合う。何事もなかったかのように視線が逸れてそれでやっと私はノートをとるのだ。彼が私を気にしてくれていることを確認して。胸を喜びに満たしながら。それから、黒板を見た彼が呆れたように少し笑っているのだって、私は知っている。
作品名:授業中 作家名:ハチ