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光のお酒

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 吾郎はもう眠ろうと思いました。
 ところが、布団に入ってからもさっきの桜川村の風景が頭に浮かんで、なかなか眠る事が出来ません。
 結局、吾郎はもう一度、机の上のお酒とグラスの前に座りました。
 グラスに酒をそそぐと、今度は明るい柔らかい光が映ります。
 今度の光景は、春です。小川のふちに植えられた桜が満開の花に重そうに揺れています。
 吾郎の目は山の上の空にそそがれました。抜けるような青い空に、大きく×を描くような飛行機雲が出ていました。
 これは、吾郎が桜川村を去ったあの日の光景なのです。
 画面の端から、自転車を引く大介の姿が現れました。
 吾郎はその姿をみて驚きました。
 自転車の前輪は歪んでまっすぐ走りそうにもなく、大介は片足を引きずっています。そして大きく擦り傷のついた顔は涙でぐしゃぐしゃでした。苔で汚れた服の様子で、やっと吾郎は何が起きたかを理解しました。
 あの日、大介は見送りに行こうとしてくれていたのです。けれど急ぎ過ぎてしまったのか、小川に架かる橋を渡る時自転車もろとも川に落ちてしまったのでしょう。見送りに間に合わなかったのは、そのためだったのです。
 泣き続ける大介を、大介のお母さんが迎えに来たところで映像は途切れました。
 残ったお酒を口に含んだ吾郎は、かすかに残る、桜川を渡る風のにおいを感じました。
 さあ、手紙を書かなければなりません。
 何をどう書けばいいのかよく分かりませんが、結びの言葉は決まっています。
「今度遊びに行きます。 吾郎」、と。
作品名:光のお酒 作家名:西_