振り返ったら・・・(5/19編集)
美羽は夕焼けで真っ赤に染まった道を、一人で歩いていた。
何の用事だったのかはもう覚えていないが、とにかく家に帰る途中だった。
「今思うと不思議なんだけどね、あたし以外には前を歩いている女性一人以外、動物一匹さえも道に出ていなかった」
人通りが少ない道ではなかったのだが、まあ時間帯が時間帯だ、たまたまかと思って気にせず歩いていた。
しばらく歩いていると美羽の方が歩くのが速かったみたいで、その女性を追い越した。
けれど抜かした瞬間、なぜか違和感を感じた気がした。
女性は髪の長く、躰が血に染まっているとか歩き方がおかしいとか、別にそんなことはなかった。
何だろう、どうしても気になって、立ち止まらないままふと振り向いてみた。
そうしたら、女の人は後ろを向いて歩いていた。
「……ううん違う、後ろを向いていたというか……顔だけが……後ろ姿と全く同じだったんだ」
前髪がすごく長いから顔が隠れているとか、そういうことじゃない。あれは絶対に後ろ向いてる姿だった。
白い手の甲。
赤いマニキュアで塗られた爪。
サンダルを履いた足の先。
「ここまで言ったらわかるでしょう?」
その女の人、どちらも後ろ姿をだった。
作品名:振り返ったら・・・(5/19編集) 作家名:狂言巡