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関西夫夫 いつもの

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食後に、コーヒーを飲むのが、うちの定番で、食い終わったほうが準備することになっている。たいてい、俺の旦那がいれるが、たまには俺が自分でいれる時もある。うちのコーヒーは、普通の粉コーヒーに湯を注ぐだけのもので、俺は、それに水か氷をいれて温度を調整する。そうせんと、超猫舌の俺は火傷するからや。

 だが、どういうわけか、自分でやると好みの温度にならへん、というこになる。冷たすぎたり熱すぎたりで、ええ加減にはならへんのだ。

「はいよ、コーヒー。」

「おおきに。」

 目の前に、ちょっと湯気の上がるマグカップ。口をつけても熱いことも冷たいこともない。ちょうど、ええ温度のコーヒーなんで、安心して飲める。

「どうや? 仕事は? 」

「連休が終わったら、ちょっとマシやろ。後はギリギリあたりは忙しいから、いつも通りや。」

「さよか。ほな、大晦日は迎えに行ったるから、二年参りして帰ろ。」

「えー、俺、ボロボロやねんけど? 」

「まあまあ、たまには神さんに挨拶しよやないか。」

「無神論者のくせに、何言うてんねん? このあほは。」

「いやあー、なんか甘酒飲みたなってな。神社で無料で配ってるやん? あれ、飲みたいんや。付き合えや。」

「コンビニに売ってるやろ? 」

「ちゃうねん、あの雰囲気で飲むのがやりたい。」

 たまに、俺の旦那は、不思議なことをやりたがる。初詣のできる神社は、俺の職場から、ちょっと先の駅にあるから、それほど面倒ではないし、俺の仕事が終わるのが、深夜枠やから、確かに二年参りになる。酔狂なことをやが、まあ、ええやろう、と、俺も、「わかった。付き合おうたる。」 と、最後に返事する。

「せやけど、俺は飲まへんで? 」

「冷ましたらええがな。」

「どうやって? あれ、水はいれられへんやろ? 」

「冷めるまで待ったらええ。除夜の鐘聞きながら、ぼぉーっとすんのもええ。」

「寒いっちゅーねんっっ。」

 寒風の中、あの熱い甘酒が冷めるのを待ってたら、こっちがカチコチに凍る。と、抗議したら、俺の旦那は大笑いや。

「文明の利器っちゅーもんがある。カイロを用意して、お前の背中と腹に張り倒したら温かいから大丈夫や。それで足らんかったら、境内の人気のないとこで、俺がおまえの体温上げたってもええし? 」

「このくそ寒いのに青姦てか? 風邪ひくわっっ。」

「いやあーみなとはんのエッチ。そこまで考えてはんの? 」

「おまえはやりかねん。」

 ずずっと、コーヒーを飲んで、食卓の隅っこに視線を移したら、コーヒーの瓶がある。ラベルには、「いつものコーヒー」 と書かれている。

 ほんま、いつものコーヒーや。うちの家の俺限定のいつものコーヒー。俺よりも、俺の好みがわかってる俺の旦那しかいれられへんコーヒーや。

 それを飲みながら、なぜ、このあほは、あほなことを言うてるんか、と、考えた。今年は、いろいろと騒がしい年で、うちの家には何もなかったけど、他では、いろんな災害があった。どれに巻き込まれることもなかったけど、俺の旦那は少しでも、その災害に遭った人らを助けたい、と、細々と募金をしている。一回ではなく、少しずつ延々と。それを思い出して、ああ、と、気付いた。

「ちょっとは神さんに働けって、発破かけにいくんか? 」

「まあ、そんなとこや。来年は、平穏で暖かい年にしたってっくれへんかったら、神さんのどたまをどつきに行くからな、って脅したろ、と、思て。」

「せやな、それはええかもしれへん。」

 せやろ? と、俺の旦那は笑う。世話好きのお人好しなので、災害の現場をニュースで見て、心を痛めていた。報道は少しずつ減っているが、まだ復興には程遠いところが、たんとある。だから、神頼みしとこう、と、思ったらしい。俺の旦那らしい御意見や。

「俺、甘酒飲んだら寝そうや。」

「あかんかったらタクシーで帰る。それぐらいの贅沢しても、罰はあたらへん。」

「うん、そうしてくれ。」

「帰ったら年明けのメシ食って死ぬほど寝て、ええことも一杯せなあかん。」

「一回して寝かせてくれ。俺、死ぬ。」

「・・・・・溜まってんのに一回で寝れるんか? 俺の嫁は。」

「寝れるやろ? ボロボロのとこへ初詣して甘酒まで飲んだら沈没じゃ。」

「くくくくく・・・・死人も生き返らせる俺のテクで蘇らしたるがな。」

「ないない、んなもん。」

 ぐぐーっとコーヒーを飲み干したら、俺の旦那も飲み終わっていた。それを洗って、居間の電気を消すと、寝室に引き取る。別々に寝室はあるのやけど、俺の腕゛掴んで、俺の旦那は自分の寝室に引き摺る。この時期、スキンシップする暇はないから、寝るのだけでも一緒に、ということになっている。寒がりの俺のために、俺の旦那は電気毛布で布団を温めてあって、それは俺のベッドにはない。

 つまり、俺は、この師走の時期は旦那と寝ているということに違いない。ほのかに温かい布団に入ったら、すぐに眠りが来る。

「おやすみ、花月。」

「おやすみ、水都。」

 どっちも師走は忙しいから、挨拶したらシステムダウンするみたいに、こてんと寝る。あと、一週間。それを乗り切ったら二年参りや。

作品名:関西夫夫 いつもの 作家名:篠義