夜を走る
俺と朗が育った施設では年に何回か大人たちが俺たちを見に来た。気に入ってもらえればこの施設から抜け出せる。条件としてはできるだけ幼くて可愛くておとなしい良い子であること。でなければ頭が良いとか特技があるとか特別に綺麗であるかだ。
赤ちゃんであるほどよかったし、せめて10歳以下であることが望ましく、俺らのように14歳を越えてしまえばもう希望はないだろう。
可愛い顔をした朗が売れ残りなのはヤツが病弱だったからだ。今は随分丈夫になってきたのだが、
ここに入ってきた5歳くらいの時はしょっちゅう熱を出して寝込んでいた。看護師の免許を持っている
女先生に言わせると酷く衰弱して免疫が低下しているらしかった。
おまけにヤツは身体のあちこちに傷があって裸になるとぞっとした。飲んだくれの父親にでもやられたんだろうが俺は聞いたことはない。俺だって似たようなもんだし、そんなこと聞かなくても判ってた。
一方の俺が売れ残るのは当然だ。
生まれつきいけすかないきかん気な顔付きでどう繕おうと言動は粗っぽくなってしまう。慈悲深いお金持ち或いは労働力を求めて、或いはいかがわしい目的で子ども達を見に来ている輩に会いたくても俺は「お仕置き室」と名付けられた狭い小屋に押し込められているのが殆どだった。そこは過去に罰を受けた子ども達の排泄物や吐瀉物、もしくは涙、もしくはどういうことが行われたのか精液などの臭いが染みついて蒸し暑い夏には耐え難い場所だったが、そこに閉じ込められていた。時折、朗が来てくすねてきたものを壁の隙間からねじ込んでくれた。穴から僅かに見える朗の指先を舐めた。朗の軽い笑い声が聞こえてくる。
「すげえ。かっこいい」
ある冬の朝、施設を訪ねてきたのはここを卒業した徹さんだった。ここを出た後は隣町の工場で働いている。先生たちはあまりいい顔をしなかったが時折訪ねてきては俺たちに菓子やマンガ本、時にはエロを持って来てくれるのだ。
この日は買ったばかりのKawasaki W650を見せつけにきたのだった。