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充溢 第一部 第二十九話

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第29話・2/2


 学長が緊急アピールをした。
 例の薬の副作用を認めたのだ。
 この薬を人間が飲み続けると、心臓の機能を弱める事になるようだ。
 学長にとっては、目障りな小娘を曝しあげて、追放させることなど造作もない事だろう。


「済まない、今は国民の溜飲を下げてやるしかないのだ……」
 公爵が苦渋の顔を見せる――珍しい。
 彼の仕事は、弱みを見せると喰われてしまうような仕事だ。だから、心身共に健全で、いつ攻めて来られても叩きのめしてやれるぜ、と言う顔をしていなければならないのだ。
 相手が儂だとは言え、このような顔を見せたのはエリザベッタ以来なかった。
 公爵は儂が怒っていると思っているようだ。『損な役回りだ』と脅して笑ってみせる。
 学長が公表したのは、副作用だけでなく、その研究を行った体勢と、責任の所在についてもだ。
 それは、外注が独断で行ったという。反論しても無駄だ。実際に人が死んでいる以上、誰かが人身御供にならなければならない。
 問題の外注がスィーナーだと言う事はすぐに噂された。意図的に流しているのだから当然だ。
 加えて、コーディリアの娘であると言う事までバラされてしまって、市中は大いに盛り上がった。

 学長としては――委員会としては茶葉の秘密が解き明かされれば、スィーナーなど用済みだし、母親同様、自由にさせるには危険な人材なのだ。
 若い女が一人追い出されては、何処へ流れ着こうと、研究の継続などまともに出来まい。

 公爵はその勢いを押さえたい気持ちでいっぱいだったが、火の手の勢いは凄まじく、燃え尽きるのを待つ他なさそうに見えた。
 公爵は儂から離れて顔を伏せる。そして、スィーナーの薬を使えないと嘆く。自分には権利がないと。
「いや、お前はそれを使うべきだ。娘の為に作られた薬だ。
 彼女はガラテイアではないのだから」
 公爵は同じ姿勢のままじっと思沈していた。
「ありがとう。だが、私もそろそろだな」
 背中がずっと狭い。こんな所に、重い物を載せられていたのだ。
「あんたはいい仕事をしたよ。こっちこそ感謝しなくちゃならん。
 エリザベッタとフランチェスカを大切にな」
作品名:充溢 第一部 第二十九話 作家名: