充溢 第一部 第二十八話
ネリッサに生気を感じた。駆け寄ると、薄目が開くのを認める。
「ネリッサ、大丈夫か? 私だ」
「ポーシャ……様……」
あの日のままだ。
感動の出逢いに浸っている間に、我々は再び深い眠りについた。寝心地の悪い状態で、良く二人眠れたものだ。
彼なら、毒薬を撒いたってよかったのだ。そうしなかった事には感謝してやろう。
時を失い、二人っきりになった部屋から怖ず怖ずと這い出す。
地階へ上がると、翌日の太陽が我々を出迎えた――太陽は今日も幸福だ。
こうして、冷たい象牙の塔から生還した。
※人の過ちを大げさに取り上げることにより、イカサマ師は自分の過ちを見えなくしてしまう
『法句経』より
作品名:充溢 第一部 第二十八話 作家名: