The El Andile Vision 第3章 Ep. 4
「レトウ。何とか無事に戻ってこれたようだな」
「あんたのお陰で何とか、な。約束通り、何とかここまで辿り着けたぜ――だが、イサは……」
レトウは暗い目を、問いかけるようにリースに向けた。
そんなレトウに、リースは大丈夫だというように、軽く頷いてみせた。
「イサスは無事だ。所在もつかめた。とはいっても、あまり良い状況ともいえないが――」
リースが言いかけた途端に、サウロの表情が変わった。
「おい、リース。それは、どういうことなんだ。イサはどうなっちまったっていうんだ!うまく、逃げたんじゃなかったのか。おまえがついていて、一体なんだって――」
父が息を弾ませて、矢継ぎ早に言葉を投げかけるのを、リースは黙って受け止めた。
サウロ・クライヴにとっても、この四年の年月の間に、イサス・ライヴァーは、自分の息子と同様に気にかけるべき存在となっていたのだ。
もっとも、サウロは、もともとイサスを盗賊団の中に置くことには反対していた。
リース以上に、少年を愛おしみ、折りあらば普通の生活に戻したいと思い続けてきた人間だったのだ。
サウロ自身、権力や地位などとは終生無縁のような人間で、息子がアルゴン騎兵隊でしかるべき地位を得たとあっても、頑としてその暮らしぶりを変えようとはしなかった。
「いったい、何だって、この俺の息子が騎兵隊なんぞに入っちまったのかねえ……」
未だにそうぼやくのが、サウロの習慣になっていた。
そんな父親の姿を見てきたリースにとって、イサスの現状をありのままに話すのは心苦しいことでしかなかった。
しかも、今……ザーレン・ルードのあの言葉が彼の胸を押し潰しそうになっている今、彼の心は余計に重かった。
しかし、リースは気持ちを奮い立たせた。
時間がない。一刻も早く、できるだけの手を打たねばならない。
「ユアン・コークが、イサスを手の内に置いている。――奴は、ザーレン様に、今日の大葬の式典にイサスを連れてくると言ったそうだ」
それを聞いて、レトウが目を瞠った。
「な、何だって……!ちょ、ちょっと、待てよ。俺には何のことかさっぱりわからねえ。何だってユアン・コークはイサスを州侯の葬儀に引っ張り出さなきゃならねえんだ?」
リースは首を振った。
「……俺にも詳しいことはわからない。だが、公の場を利用して、ザーレン様に何らかの揺さぶりをかけるつもりなのかもしれないな」
(そして、そこで何が起こるか――)
そう思うと、リースの不安は否が応でも高まるのである。
(――イサスを、殺さねばならない――)
ザーレンの言葉が、未だに彼の頭の中で冷たい鋼のように残響していた。
(……そんなことは――)
あってはならない。そんなことは断じて許してはならないのだ、とリース・クレインは固く思い返した。
ザーレンにとっても、イサスにとっても、それは絶対にあってはならぬことなのだ。
「リース……?」
リースの異様に険しい表情に、レトウがやや驚いたような目を向けた。
サウロも、不審気な視線を、息子に注いでいる。
リースははっと我に返った。
「とにかく、何か考えがあるんなら、言ってくれ」
そう言うレトウを、リースは真剣な眼差しで見返した。
「ああ、俺もそれでおまえに会いたかったんだ。かなり危険を伴うかもしれないが……おまえを、当てにしていいか、レトウ――」
レトウはにやりと不敵な笑みを見せた。
「……いいぜ。聞かせてくれ。俺も、イサを助けたいんだ。そのためなら、何だってするぜ――」
作品名:The El Andile Vision 第3章 Ep. 4 作家名:佐倉由宇