魔王の遺し物
身動きもできない鈍痛を体感しては、笑い声とからかいに言い返す気力も出てこない。うずくまる俺をよそに、相棒はまだぐーるぐーると喉を鳴らす。のんきなもんだ。
「あ、雪降ってる」
神器からはい出た俺を迎えたのは、ねえちゃんのさらなる冷やかしではなかった。視線を追えば窓の外、夜にはまだ早いのに点灯している街灯の明かりと、そこにちらつく小さくて白いもの。
「ほんとだ! 相棒、雪だ雪!」
相棒を引っ張り出して、俺は窓にはりついた。風はないようで、雪ははらはらと舞い落ちてくる。
「まだ積もんなそうだけどなー。あ、おい」
普段から抱かれるのが好きじゃない相棒だ。前足で胸を押してきたので、仕方なく放してやった。すると相棒は神器に直行する。さらに言えば、神器の布団にとっぷり浸かっているねえちゃんのそばへ。……ん?
「ねえちゃんなにちゃっかりあたってんだよ! ねえちゃんのは別にあるだろ!」
「だってお父さん、まだ出してくれないんだもん」
相棒はそんなねえちゃんの脇から、もそもそと中へ侵入していく。なんか悔しい。
「あんたも入んなよ、あったかいよー」
「誰が用意したと思ってんだよ!」
でも入る。誰でも神器の大いなる力の前には無力だ。
布団を押し上げた途端に、温風が誘いかけてくる。負けた。この時点でもう負けた。
足を突っ込めば、中央に陣取った相棒が寝そべっていた。こちらに腹を向けていたので、両足を軽く押しつけてみる。さすがは毛皮つき生体湯たんぽ、予想通りの弾力。眠りにいざなう喉鳴らしの振動つき。
「あったけー」
「みかんないの?」
「ねーよ」
確かリビングにあった気もするが、今の俺には何を言っても無駄だ。神器の餌食になり果てた俺にはな。