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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第十章 勇介と靖国

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鳥居をくぐると戦争で英霊になった多くの犠牲者の魂が語りかけてくる。その悲しみとその怒りはどこに向けられているのだろうか。
「おじいちゃん、魂の声が聞こえるような気がするんだ。叱られているように受け取れる」
「貴史くん、何故そのように感じるんだい?」
「自分たちが犠牲になって守った国と今は違うって言っているように聞こえる」
「なるほど。バブルで浮かれている日本人に警告を発しているんだろうね。大東亜戦争が始まるちょっと前も景気はよかったんだ。
そのことが浮かれていた日本人に誤った方向に向かわせる後押しをしたように思うな。冷静な判断をさせなかったことが悔やまれる」
「じゃあ、今のバブルも何かの理由で消滅したら敗戦の時のようになってしまうのではないでしょうか?」
「多分ね。そのショックは尾を引くだろうね。でもね、アメリカが負けるって言う場合もあるよ、今度は。そうなったら世界中不景気になってしまう」
「日本が変わってリーダーにはなれないのですか?」
「こんな状況じゃ無理だろう?金儲けしか考えていないんだから」
「戦争しか考えなかったあの時と同じですね?」
「そうかもしれない・・・歴史は繰り返すって言うからな」

終戦時から続いていたアメリカとソ連の関係も修復されてきている。地域紛争を除けば大きな世界大戦はもう考えられなくなっていた。
ゴルバチョフによるペレストロイカはソ連を崩壊させロシアの誕生を見る。冷戦の終結はアメリカの目を中近東へと向けさせていった。

「勇介おじいちゃん、大東亜戦争は本当に侵略戦争じゃなかったの?」
「貴史くん、調べたのだろう?君はどう思うんだい?」
「うん、日清戦争後の中国、韓国への侵攻はやっぱり侵略だったと考えるよ。その当時のイギリスやアメリカ、フランスと同じことを
やっていると言う自負があったしね。帝国主義だね。大日本帝国万歳!だったから」
「なるほど、じゃあ真珠湾攻撃以降の戦争はどうなんだい?」
「何人かに聞いたけど意見はばらばらだった。目的はアメリカの輸出停止に対抗する石油資源確保と植民地になっている東南アジア諸国の
開放だと謳っているけど、実際は堪忍袋の緒が切れたって言う感じだね。冷静さを失っていたからそう言うんだけど、どう見たって
勝てっこない戦だもの。関が原とは状況が違うよ」
「そういう喩えか・・・関が原も外人が見たら全員西軍の勝ちって言うらしいから、家康のラッキーな面はあるのかも知れない。けど、周到な根回しをしていて
戦う前から勝ち戦になると信じていた様子が伺えるよ」
「真珠湾はアメリカの呼び込み作戦だったんですね。それにまんまと引っかかった?」
「言い方悪いけど、そういうことになるね。アメリカは喜んだだろうね。カイロ宣言を呑みます、と日本が返事してたら困ったのは
アメリカだったからね。それこそロシアと友好関係など締結されたら極東の安全問題が揺らぐからね」
「そうなっていたら、韓国はロシア軍に占領されていたかも知れませんね」
「満州は確実にやられていたよ。遼東半島の支配は念願だったからね、ロシアの南下戦略には」
「ある意味その野望は日本の戦争と言う形で無くなってしまったんですよね?今となってはよかったというべきでしょうか?」
「ドイツとの戦争もあったから、タイミングはロシアにとって悪かったのだろうな。不可侵条約も結ばざるを得なかっただろうし、
一方的に無効にしてヤルタ会談後宣戦布告したことも野望の一旦だったんだろう。原爆の投下はロシアは反対だった。まだ日本への
侵攻が完全じゃなかったから。アメリカはそのこともあって早く終戦に向かわせたかったんだね」
「アメリカとロシア(ソ連)の冷戦はもう始まっていたのですね。皮肉ですよね?冷戦じゃなかったらアメリカはロシアと日本を半分ずつに
分けたかもしれませんね」
「少なくとも前に言ったけど満州と韓国は占領されていたかも知れない」
「日本にとっては早めの終戦が功を奏したということになるのですね。だったら、あんなに犠牲者を出す前に停戦すべきだった」
「誰しもがそう考えるよね。負け戦というものは引けないんだよ。下がり始めた株を売り切れないで紙くずにしてしまうことはよくあることなんだ」
「タイミング?引き際の大切さですね」
「そういうことだ」

貴史は境内に若いカップルや親子連れが多いことにちょっと驚かされた。靖国といえば戦争の犠牲者を祭っているところと言う
観念があったから、その世代じゃない人たちが参拝に来ていることが不思議に見えたのだ。

「おじいちゃん、ここには若い人たちも来るんだね。俺みたいにおじいちゃんを亡くした人かな?」
「そうばかりじゃないよ。思想的に近い人や天皇陛下を崇拝している人、それに有名な場所だから寄ってみた、ということもあるだろうしね」
「ふ〜ん、俺は今純粋におじいちゃんへの祈りを捧げてきたけど、この靖国が日本人のふるさとだと考えている人もいるんだね」
「多くの軍人や戦争犠牲者を祭っているから、その思いに日本人の生き様を重ね合わせて今の世を嘆き悲しむ声も聞かれるね。
「自由という考えは身勝手をするということではなく、正しく規律を守って互いを尊重しあうという精神なんだよね。
悲しいけど教育の現場からも、社会の通念からもそして国際的な外交までその基本理念がねじ曲げられていると聞いたよ」
「難しいことを言うね。たとえば家族の関係なんかもそれが顕著に出ている気がするよ。年寄りを敬わないとか、親をバカにするとか
言ったことだね。修司と由美さんの新しい家族にはそう言う部分は無いから、わしは安心じゃよ。全ては貴史くんのお陰じゃな」
「俺なんか・・・おばさんが幸せになって欲しいと単純に考えただけなんだから」
「簡単に言うけど、なかなか出来ないことなんだよ。これからは自分の人生を思いっきり楽しむようにしなさい。
君には才能がある。以前話してくれたように社会の先生になって日本の将来を担う子供たちを教育してやって欲しい」
「そのつもりで勉強はしています。正しく教えるということは間違ったことを学ばせると言うことに尽きると考えていますから」
「素晴らしい!その通りじゃ。さすが我が孫じゃ!」
「まだですよ、勇介おじいちゃん・・・」
「そうだったな、ハハハ」

洋子に声をかけてから帰ろうと、貴史は勇介と一緒に修司の家に向かった。
「お帰りなさい!義父さん、大丈夫でしたか?」
「まだまだ若いぞ!安心してくだされ。それに貴史くんも居ったしのう。わしはこれで帰るけど正月にでもみんなで遊びに来なされ。
お年玉用意しておくから」
「本当ですか?絶対に行きます」
「意外にはっきりと言うのう、まあええわ。じゃあ短い時間じゃったけどこれでさようならする。修司!駅まで送ってくれ」
「はい、今行きます。じゃあ、由美ボクはお父さんを東京駅まで送ってくるから、貴史と待っててくれ」
「解りました。お義父さん、ここで失礼します。お気をつけてお帰り下さいね」
「おお、由美さん、ありがとうな。修司をよろしく頼みましたよ」
「こちらこそ・・・あなた、お願いしますね」
「うん、じゃあな」