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てっしゅう
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「夢の続き」 第十章 勇介と靖国

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第十章 勇介と靖国


高校三年生の二学期が始まっていた。洋子の苗字が栗山から佐々木に変わる時が来た。クラスで担任から聞かされてざわついた。
「お母さん結婚したのね?」みんなが洋子にそう聞いてきた。
「うん、そうなの」なんか返事するのが面倒になっていた。
「新しいお父さんってどんな感じの人?」次に必ずそう聞かれる。
「どんなって・・・素敵なお父さんよ」
「えっ?洋子、もうお父さんって呼べるの?」
「だって、なんて呼ぶのよ」
「私なら、慣れるまで無理だわ。だって本当のお父さんじゃないんだもの」一人がそう答えると、
「ずっとお父さんって呼べる人が欲しかったから、私は直ぐに呼べたよ」
「ふ〜ん、洋子はファザコンだったんだ」
「違うって・・・もう・・・」

貴史が近寄ってきた。

「お前らみんな洋子をいじめるなよ。聞いてりゃ、ファザコンだの何だのって」
「貴史くんは洋子の新しいお父さん知ってるの?」
「当たり前じゃないか。俺のお父さんになる人なんだから」
「どういうこと?洋子と結婚するって言うこと?」
「知らなかったの?」

またこの返事にざわついた。

「じゃあ、片山くんは大学へ行かないの?」
「行くよ。教師志望だからね」
「じゃあ結婚しないんじゃないの」
「今すぐはね。お互いに大学を出てからだよ」
「そんな先になったら、解らないじゃないの?他に好きな人が出来るかもよ?」
「どちらにだい?俺か?洋子か?」そう言ったクラスメートの女子を睨みつけた。
「怖い顔しないでよ。冗談なんだから」
「男を変えているのは洋子じゃなくお前のほうだろう?違うのかい?」
「失礼ね、乙女に向かって!片山くんって」
「ほう、乙女か・・・そうだろうなあ、ずっとそうならないようにしろよ」
「不細工で悪かったわね、洋子には負けるけど、これでももてるんだから」
「そうかい、良かった。俺が心配しなくてもいいって言うことだな?」
「そうよ、あなたこそ浮気がばれて洋子に捨てられないようにしなさいね」
「ありがとう、ご忠告してくれて」

怒ってその場から出て行った女子に、「頑張れよ」と後ろから声をかけた。洋子が笑いながら、
「貴史も言うわね。可哀そうなんじゃない?」
「お前を意地悪する奴は許せないんだ」
「嬉しいけど、仲良くやってね。あと半年で卒業なんだから」
「解ったよ。それより、お母さん仲良くしてるかい?」
「お父さんと?」
「ああ、もう一緒に暮らしているんだろう?」
「そうよ。多分ね」
「多分かよ、頼りないなあ」
「ずっと恭子ちゃんと話しているから良く解らないし、二人が何しているのかなんて」
「洋子も言うね。何してるというの?」
「あなたが私をいじめているじゃない!」
「すまん・・・恭子ちゃんって彼いるの?」
「突然何よ!話し変えて」
「いや、どうかなあって思ったから」
「心配してくれているの?それとも・・・」
「それともなんだい?」
「いえ、考えすぎたわ。いないと思うよ。話さないから、まだ中学生よ」
「洋子と俺はどうだった?早くなんて無いよ」
「あなたが強引にしてきたから・・・」
「そこか!まずい展開になってきたな。もう止めよう。ところで俺って遊びに行っても構わないのかなあ?」
「そうそう、お父さん貴史に来て欲しいって言ってたよ。忘れてた言うこと」
「そうかい。じゃあ、今度の土曜日の昼に行くよ。洋子構わないだろう?」
「うん、いいよ。父と母に話しておくから」
「頼むよ。洋子・・・幸せそうだなあ、良かったな、お母さん結婚して」
「貴史・・・」
「泣くなよ。俺がいじめているように見えるだろう」
「ゴメン・・・」

洋子は早く貴史と暮らしたいと思った。大学へ行くのを辞めて、学生の貴史と結婚しても構わないとさえ
考えていた。

土曜日が来て、貴史は修司の家に遊びに行った。昼ごはんを食べようと約束していたので12時少し前に着くように
自宅を出た。姉の恵子が同じように出かけようとしていたので途中まで一緒に電車に乗ることになった。

「貴史、修司さんってお住まいどちらなの?」
「御茶ノ水だよ」
「じゃあ、由美さんも近かったのね」
「そうだね。姉ちゃんどこに行くんだい?」
「えっ?言わないといけない?」
「どういうこと?学校じゃないだろう?」
「うん、実は・・・友達が彼を紹介してくれるって言うから、会いに行くの」
「ふ〜ん、懲りたかと思った」
「バカ!今度は普通の人よ」
「普通か、じゃあ前の人は変態だった訳ね」
「そんな言い方しないでよ。普通に見えたんだから」
「姉ちゃんは、夢中になるタイプだから俺と違って気をつけないといけないよ」
「貴史は洋子ちゃんに夢中じゃなかったの?」
「姉ちゃん知っているだろう?小学校の頃からずっと遊んでいたんだぜ。兄弟みたいに感じていたし
恋人みたいにも感じてた。夢中って言うより、欠かせない存在って想いだね」
「羨ましいわ、洋子ちゃん美人だし、優しいし、あなたに夢中だし」
「そうかい?普通だよ」
「あなたの普通ってハードルが高いのね」
「姉ちゃんの紹介してもらえる人ってどんな感じなの?」
「一度顔は見たことがあるの。何人かで飲みに言った時に居た人だから」
「じゃあ、向こうから姉ちゃんを志望して来たんだね」
「そういうことになるかしら」
「もてるんじゃない、そういえばこの頃綺麗になったような気がする?エッチをしたせい?」
「最低ね、相変わらず言うことが」
「洋子もそんな風に見えるから、そうなのかと思っただけだよ」
「へえ〜じゃあ、由美おばさんもきっと綺麗になってるかも知れないね」
「楽しみだな、今日会えることが」
「あなた洋子さんに怒られるわよ、そんな事知られたら」
「知られないようにするよ。それに、自分のお母さんになる人が綺麗だったら嬉しいじゃない」
「そうね、父親もかっこいいと嬉しいものね」
「その点、我が家は平和で温かいけど・・・ダメだな」
「まあ!可哀そうなことを、お母さんもお父さんもがっかりするわよ」
「姉ちゃんが綺麗になったから大丈夫だよ。今度は幸せになりなよ。焦らずに求められても慎重にな」
「うん、貴史ありがとう。持つべきものはやっぱり弟ね」
「恋人だったら言うことなかっただろう?」
「言いすぎよ!今言ったことは取り消すから」
「怒るなよ、冗談なんだから」
「次で降りるから、洋子ちゃんとおばさんによろしくね」
「ああ、言っておくよ。頑張れよ!」

ホームに降りた恵子の後姿はどこと無く弾んで見えていた。短いスカートから出ている細い足も
洋子に負けないぐらい綺麗だと貴史は思った。

御茶ノ水で電車を降りて坂を下ってゆく。靖国通りの手前を左に入って少し歩いたところに修司の家はあった。

「お邪魔します!貴史です」
「よく来たね。待っていたよ、上がって」
修司は笑顔で迎えてくれた。
「ありがとうございます。あれ?そこに居るのは勇介おじいちゃん!じゃないの?」
「おお!貴史くん、久しぶりじゃのう。息子の結婚を聞いて思い腰を上げてやって来たんじゃ。あなたが来るよ
と聞かされて楽しみに待っていたんだよ」
「そうでしたか、修司さんも教えてくれればよかったのに・・・手ぶらで来ちゃったじゃないですか」