当たりくじ
「昨夜、中央区の郵便ポストに2億円の当たりくじが投函されていた事が分かりました。これは昨年暮れに売り出された年末ジャンボで・・・」
朝のニュースを聞いた途端、クラッと目まいがした。
と、言うのもポストに宝くじを間違って投函した大バカ野郎は、他ならぬこの俺だったからだ。
元々、夢を追いかけるタイプではない。
年末ジャンボは、なんとなく年の瀬の風物詩として買うが、それも10枚だけ。
大当たりを期待したこともなく、せいぜい下3桁を見るだけだった。
この宝くじも下一桁のみ当たっていると思い込み・・・、
今年、購入する年末ジャンボの資金の一部(300円分)にする予定だった。
それを、ついでに立ち寄ったポストに年賀状と共に、放り込んでしまったのだ。
「間違えた!」とは思ったが、たかが300円。
収集に来る郵便局員を捕まえて、「返してくれ」とも言いにくかった。
なんとなくバカバカしくなって、その日は宝くじを買う気も失せ、そのまま帰ってしまったのだが、2億円の当たりくじだったとなれば話が違う。
「ここは恥を忍んで、警察に行くしかないか・・・」
俺は覚悟を決めて警察に向かった。
とはいえ、あんなニュースが出たとあっては、「俺がミスした」「私が間違えて投函した」という輩は大勢出てくるだろう。
はたして警察は、俺が張本人だということを信じてくれるだろうか・・・。
歩きながら、そんな不安が頭をよぎった。
今となっては皮手袋をはめていたのが悔やまれる。
くじのどこかに指紋でも付いていれば、話は簡単に思えたからだ。
それなのに連番で購入する俺は、番号の確認さえ、袋の上から行っていたのだ。
こうなれば誠心誠意「俺が落とし主です」と訴えるしかあるまい。
俺はため息をついて、警察署に向かった。
宝くじが届けられた警察署に着くと、いるわ、いるわ。
予想通り「俺がポストに落とした」「私がハガキと間違えて投函した」と語る詐欺師どもが十数人も集まっていた。
担当警察官は、すぐにわかるウソをついた者には怒鳴りつけて追い返し、勘違いしているか、投函した可能性のある者は慎重に調べ始めた。
無論、俺もまたその一人で、いくつも質問をされた上、地図上にあるポストの位置の確認もなどもさせられた。
「では、君がくじを投函したポストは、東光寺町のポストに間違いないんだね」
警察官が俺の顔を覗き込みながら言った。
「そ、そのとおりです。十三時頃に投函したはずです」
俺はまるで、自白でも強いられているかの様に、しどろもどろに答えた。
その途端・・・、
「ああ、きっとこの人だ! 投函されたポストも時間も合っている。」
担当の警察官が、相棒の婦警さんとうなづきあった。
「では、もう一人の投函者はこの人で決定ということで・・・」
担当の警察官は机の中から宝くじを無造作に取り出すと、簡単なサインだけで返してくれた。
あまりにもあっけなく宝くじが帰ってきた事に驚いた。
ただこの警察官、ちょっと気になる事を言わなかったか?
そこで俺は「もう一人と言いますと?」と質問をぶつけてみた。
すると、警察官は驚くべき事を語ってくれた。
実は偶然にもその日、中央区の二つのポストで間違って投函された宝くじが発見されたのだと言う。
2億円の当たりくじの入っていたのが、北小路交差点前のポスト。
300円の当たりくじの入っていたのが、俺が投函した東光寺町のポストというわけだ。
「まあまあ、300円だって大切なお金なんだから」
がっくりとうなだれて部屋を出る俺に、担当の警察官が笑いながら肩を叩いた。
( おしまい )
作品名:当たりくじ 作家名:おやまのポンポコリン