情熱の日々
「俺たちオカルト研究会もなんか派手なことやるべきじゃねえのか?」
「そうなのか?」
「毎回よくわからないオカルトスポットの紹介やるだけじゃつまんねえだろ?」
「じゃあ何だよ、お化け屋敷でもやんのかよ」
「そんなのクラスの出し物で十分だろ。俺たちはもっと派手なことをやる」
「どんなだよ?」
そしてニヤリと部長は笑った。
僕は思う。
今年の学園祭は、きっと失敗する、と。
そして僕たちはなぜか女物の下着の展示を始めた。オカルト研の部室を埋め尽くすパンツ、パンツ、パンツ。
「赤、黒、白、美しいな。芸術だな」
どうも部長の頭は受験勉強のしすぎでおかしくなってしまったらしい。下着を手にしては、「やはりシルクが一番……」などと呟いている。もうこの男ダメかもしれない。というかダメだろう。
「そういやまだ聞いてなかったけど、こんなにパンツ飾って何すんだよ?」
「売る」
世界が、凍った。
学園祭でパンツを売るなんて、常識で考えて無理だろ。しかも、やたらと際どい下着ばかりが揃っている。売れるわけがない。というか、販売の許可が下りるわけがない。
「前からバカだとは思っていたが、ここまでバカだったとはな……。俺は今日限りで退部する」
「まぁ落ち着け。俺も学園祭でパンツを売るほどバカじゃない。俺たちはこれからこのパンツで絵を描く。それを売るんだ」
「は?」
は?
俺にはコイツが何を言っているのかまったく理解できない。パンツで絵を描く? せめて、パンツ『に』だろう?
「色とりどりの美しいパンツたちを綺麗に綺麗に並べて、絵を描くんだよ。ドット絵だよ、ドット絵。俺たちは、パンツでパンツの絵を描くんだ」
パンツでパンツの絵を描く。なるほど、それはとても芸術的じゃねえか。
俺は、少し興奮しているのを自覚した。
こいつはとんでもないバカだが、いつも俺を楽しませてくれる。愉快な場所へと連れてってくれる。
なるほど、こいつは燃えてきたぜ!
それからは徹夜の日々だった。
情熱が僕たちを突き動かしていく。止まらない、止まれない。眠らない、眠れない。そんな激動の日々が学園祭当日まで続いた。
僕たちは燃えていた。まるで、燻っていたタバコの火がダイナマイトに引火して家が吹き飛んだような、そんな熱い情熱が僕たちを支配していたのだった。
そして、三枚の絵が完成した。
『衝撃の娼婦の勝負』『星を見る夜鷹』『クロワッサンを食べる情婦と犬』
力作だった。これを売ってしまうのかと思うと、少し寂しい気持ちになる。
パンツでこの絵画のように美しい絵が描けるとは。
僕たちは手を取り合って、笑いあった。感動が、そこにはあった。
その夜、僕は久々にゆっくりと眠ることができた。
ベットの横には『衝撃の娼婦の勝負』が飾られている。
僕たちは、作品を手放すことができなかったのだ。販売の予定を中止して、作品の展示だけに留まった。そして、力作の一つを僕は部屋に飾ったのだ。
そこに描かれているのは、騎乗位で腰を振る全裸の女性。それを見ていると、僕はあの時の興奮を思い出してしまう。
燃え尽きることのなかった情熱が、未だに僕の中で燻っているのだ。ムラムラと、情熱を持て余してしまう。
「うっ…………ふぅ……」
きっと、またあのバカが僕を楽しませてくれるだろう。
その時まで、僕は、情熱を持て余す。