『偽りの南十字星』 33
その後、ジャカルタ高検の取調べは尻切れ蜻蛉(とんぼ)
で、裁判にまで至らず、無罪も有罪もない侭である。
藤和産業はネシアパートナーの思いもよらぬ反乱により、
結果的に赤字垂れ流しのネシア・パイン社から脱出でき、
倒産に至らず、命拾いをした形となった。
当初藤和による撤退申請を拒否したBKPMも、自国
企業による独占に切り替わっただけで、事業が継続され
ている現状では文句を付ける理由もなく、静かである。
それにしても、ジャムティワンの遣(や)り方は徹底していた。
地元警察を抱き込んだだけでなく、娘婿の国会議員まで
担ぎ出し、更にはネシア最大の新聞社を抱き込み、連日
藤和の不正を書き立て、我が行為の正当性を国民に訴えた。
多くのインドネシア人が痛快な気分でそれを読んだ事だろう。
宗像は、今回の事件を通じて、どれ程歯痒い思いをしたか、
同時に、外国における司法上の立場の弱さと言うものを、厭と
言う程痛感させられたのだった。
それにしても、ジャム爺さんのあの反乱は余りにも藤和に
とって、都合が良すぎる形だった。ひょっとして、村田は
ジャム爺さんに画策したのではないか。それで、シアンター
の杉原も突然釈放されたのではなかろうか。
とすると、村田が見せたホテルでの涙も、内部にすら起死回生の
秘策を隠すための演技に過ぎなかったという事になる。
宗像は、そう納得すると共に、村田の企業人魂に感服するのだった。
続
作品名:『偽りの南十字星』 33 作家名:南 総太郎