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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 31

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『偽りの南十字星』 31


ジャカルタ高検による取調べはのんびりしている。

連日呼び出され、検察官の前に弁護士と一緒に腰掛ける。
それから、毎朝の行事の如く弁護士が袖の下ならぬ、机の下
で検察官に一定枚数の1万ルピア紙幣をソッと渡す。
それが、開始の合図となる。

似たような質問が毎日繰り返し行われる。
そして、日数はドンドン嵩み、机の下の金額もドンドン嵩む。

大体、法律その物が未だ誠に不備と言うか、足らぬ処は古い
オランダ法典などをひもとくと言う代物である。

そうこうする内に1980年の暮れも迫って来た。

藤和産業東京本社は、二人を年末までには帰国させたいと、
シンガポールの宗像にジャカルタ大使館の応援を要請するよう
指示して来た。

早速宗像はジャカルタに飛んだ。

定宿のホテルから、目と鼻の先に日本大使館がある。
正門から中に入れば、もう日本国である。
治外法権と言う奴で、誠に頼もしい感じがする。

面会を求めると、2等書記官の他、3,4人がぞろぞろ出て来た。
差し出された名刺の中には、事案には関係なさそうな防衛庁の
文字が印刷されたものもあった。
所謂(いわゆる)、駐在武官と言うものか。

恰も、新聞記者の如く皆一斉にメモ帳を出し、根掘り葉掘り聞いた
揚句、当方の支援要請に対しては、「私企業の事案には手は出せない」
との理由で断られた。
予想に反し、全然、頼もしくなかったのである。
要するに、塀の中で威張っているだけで、門の外には出たくない、と言う奴か。

宗像が、役人嫌いになったのはこの時以来である。

                
                       続