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茶房 クロッカス その4

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 それから二日後の朝のことだった。
 俺が店の玄関先を掃除して、花壇の手入れを始めた途端に、突然背後から声を掛けられた。
「マスター、おはよー!」
「えぇっ?!」
 俺がびっくりして振り向くと、そこにはすっかりお母さんぽくなった薫ちゃんが立っていた。それもピンクのおくるみを抱いて……。
 あぁー、そうじゃなくて、ちゃんとそのおくるみの中には可愛い赤ん坊が潜むように包まれていたのだ。
「オォー! 薫ちゃん! 生まれたのかぃ? やったなぁー、可愛い赤ん坊じゃないかっ」
 おくるみの中をチラッと覗き、何だか久しぶりに会った薫ちゃんがすっかりお母さんになってるのを見たら、一緒に仕事してた頃を思い出して懐かしさと嬉しさで一瞬涙がこぼれそうになった。
 しかし、ここで泣いたらきっと薫ちゃんに笑われる。
「マスターって、相変わらず涙もろいんだね。ウフフ」
 そう言われるに決まってるんだ!
 そう思った俺は、変な意地を張ってぐっと涙をこらえ、薫ちゃんを店内へ促した。そして彼女の背中に回った時に、サッと涙を拭った。

「ひゃあ〜、懐かしいわ〜! 全然変わってないし……」
「そりゃそうさっ。これ以上変わりようがないだろ?」
「ふふっ、沙耶から時々店の様子は聞いてたから、そんなに心配はしてなかったんだ! でも本当はたまには寄りたかったわぁ。けど、いざ結婚してみると、主婦業って案外と忙しいものなのね。ヘヘヘッ」
「赤ちゃんの顔をもっと見せてくれよ」
 そう言いながら俺は薫ちゃんに近づいた。
 薫ちゃんの腕の中でピンクのおくるみにくるまれたその子は、可愛い顔ですやすやと眠っているようだった。
「ひゃぁ〜、可愛いなあー。薫ちゃん、この子は女の子かい?」
「ええ、マスター、そうよ。わかるぅ?」
「あぁ、こんな可愛い顔してるんだから、そりゃあ女の子だよなっ」
 俺は自慢気にそう言った。
「マスター、本当かなぁ? おくるみの色で判断したんじゃないのかなぁ?」
「アハハハッ。――それにしても、本当に可愛いなぁ」 
 俺が赤ん坊を覗き込んでそう言うと、
「じゃあ、マスター。少しだけ抱っこしてみるぅ?」
 薫ちゃんにそう言われたが、少しだけ迷ってこう言った。
「薫ちゃん、せっかくだけど止めとくよ。抱っこしたいのは山々だけど、万が一にでも落としたりしたら大変だもんな。俺、弁償できないし……」
 ――考えてみれば薫ちゃんだって、今回が初めての子供なのにちゃーんと世話してるって凄いんじゃないのかっ?
 女の人って、やはり生まれた時から母親になるべく必要な感情や動作を脳にインプットされてるんだろうか……? などと勝手に考えたりした。
 薫ちゃんの笑顔には幸せな様子が溢れてて、以前の俺の心配がまったく無駄なことだったと改めて認識した。