海原
僕は、その線を踏み外さぬよう
歩いていく。
一歩ずつ とぼとぼと。
半端な田舎の夜は 暗く静かだ。
聴こえるのは時々行き交う車の音と
僕の足音だけ。
足音はひとつも崩さず一定のリズムを敲いている。
点滅信号が奇妙に海原を揺らす。
僕の影が
点いたり、消えたり、点いたり、消えたり
足を止めることはできない
疲れが分からぬよう
海に落ちぬようリズムを刻む。
ふと空を見上げると、
同じような真っ黒な海が広がっている。
幾つかの点も泳いでいる。
しかしそこには道はない。
僕はここにある黒い海で十分だ。
不気味に魅かれるあの上の海に僕は行けない。
僕は、
真っ黒な海を渡る真っ白な線を歩く。
一定のリズムで。
いつかどこかに辿り着くため。