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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 29

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『偽りの南十字星』 29


其の頃、シンガポール支社長宗像は、メダン行きの機内にいた。

ジャカルタのホテルに軟禁状態の村田社長から電話があり、シアンターの
連中の相談相手になってやって呉れと言う。

メダンのホテルにチェックインの手続きをしていると、背中を突かれた。
振り向くと沢本が深刻な表情で立っていた。

「あれ、どうして此処にいんの?」
「工場を追い出されたんですよ」
「えっ、どう言う事?」
「ジャム爺から退去命令が出て、仕方なく」
「ジャムティワンがスマトラまで来たの、珍しいな。それにしても、
追い出すとは」
「宗像さん、これは乗っ取りですよ。村田さんが居ない留守を狙っての」
「うん、しかし、思い切った事をやるな」
「自分の船会社が業績不振で、米国留学中の子供達への仕送りに困って
いるんでしょ」
「そうかもな。なにせ、子沢山だからな。ところで、どうする、これから?
シンガポールへ行く?」
「矢張り、社長のいるジャカルタにしようかと」
「そう、それじゃ、俺も行くよ」

そこへ、一番年下の経理担当補佐の山崎が、沢本の袖を引いて、何やら告げた。
「えっ、そりゃまずいじゃないか」
沢本が大きな声で言った。
「どうしたの?」
宗像が聞く。
「金庫の鍵を持って来ちゃったんだって。連中追っかけて来るよ」
「そりゃ、大変だ。掴まっちゃうよ。すぐ、逃げなくちゃ。シンガポールが
良いんじゃないの?」
「でも、やっぱりジャカルタへ行きます」
「そう」
五人は空港へ向かった。
しかし、ジャカルタ行きはどの便も満席で乗れなかった。
仕方なく、ホテルに一泊する事になったが、追われている身ゆえ、誰も熟睡は
出来なかったろう。

                 
                   続