『偽りの南十字星』 28
『偽りの南十字星』 28
「ジャカルタ高等検察庁が藤和産業の現地法人社長村田智彦を
横領罪容疑で取調べ」
このニュースは瞬時にして東南アジア中の日系企業間に広がった。
それ程に、海外での日系企業としては、稀な出来事であった。
陳は知り合いの某鉄鋼系商社のシンガポール支店で耳にした。
(ジャムティワンの爺さんもやるな。藤和も益々傷が深くなるだろう)
と内心喜んだ。
しかし、悪いニュースはこれだけに止まらなかった。
ジャカルタを普段離れない筈のジャムティワン会長がシアンター警察
の警官2名を連れて、ネシア・パイン社工場事務所に突然現れ、
日本人社員は即時退去するよう勧告した。
従わぬ者は、逮捕すると言う。
村田の留守番役を与(あずか)っている沢本が、
「突然出て行けとは、何だ」
と、食って掛かったが、忽ち二人の警官に腕を抑え込まれてしまった。
結局、訳も解からず4人は私物を纏めて、宿舎のシアンターホテルに
引き揚げた。
現地調査の際、永田と玉井がトイレに飛び込んだ、あの小さなホテルである。
「沢本さん、留置されている杉原君はどうなるのですか?もう3週間は経ちますよ」
「うん、だけど、就労ビザが切れてる状況じゃ、どうしようもないよ」
「えらい事になっちゃったな」
「ここに居ても仕様がないから、シンガポールか、ジャカルタに行くしかあるまい」
沢本の判断で、四人はまずメダンに出ることにした。
続
作品名:『偽りの南十字星』 28 作家名:南 総太郎