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ネオテニー疾走

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 その運命的な出会いは補習でした。私はこの間の剣道大会で思わず相手の目を狙い打ってしまったので、うちの高校は優勝取り消し、暫くの大会出場停止、他校との公式戦禁止、それでなくても高校剣道部の殆どがうちの高校とは金輪際試合をしないと宣言したものだから、私は部員からも総スカンを食らい、そこでちょーっと反撃したら、もう完璧に学校のブラック・リストに載ってしまったのです。長らく謹慎していたせいで出席日数が足らず、今回の〝問題児補習〟に呼ばれたというわけです。
 そこには、普段は見かけない工業科の人たちも多く(工業科と普通科は校舎が違うので)、まぁ、見るからに札付きの不良、という人たちが揃っていました。今どき、札付きなんて言わないかな。
そこに来たのは、右耳にリングが三個、ボールが五、六個、左耳にはごついカフス型のピアスをつけてて、またリングが二個、耳の内側にも何個かついてる。そして、眉の上にボールが一個。
いやでも、一番目を引くのはギラギラしたその瞳だ。世の中の全てに喧嘩を売っているような、そんな。そうして、彼を初めて見たその日から、私は彼から目が離せなくなってしまったのです。そうです、一目惚れってやつです。
補習中も、十分休みの間も、私は彼から目が離せませんでした。彼自身、それに気付いていたようで―というより、自分の方が喧嘩売られていると勘違いしたみたいで、乱暴に私の胸倉を掴んで、凄んできたのです。
「おい、何見てんだ。俺の顔に何か付いてるってか? あァ?!」
ああ、あのときも。相手が私を射殺さんばかりの視線でいたから。だから思わず打ってしまったのだ。目を―。
「ぴ、ピアスが付いています」
震える声で、そう言った。怖いからじゃなくて、緊張。だって、一目惚れしたその顔が三十センチも離れていないところにあるんだもの。ふっきれたのか、ちょん、と眉上のピアスにまで触ってしまいました。あの感触、忘れない……。その瞬間、彼は馬鹿馬鹿しくなったのか、掴んでいた腕を放し、ナナメ前の自分の席に戻ってしまいました。
 それ以来、私は八文字弥次衛に頻繁に会いに行くようになったのです。八文字くんは、その目の通りギラギラした男で、そんな所にも、私は魅力を感じるのでした。
 たまたま、彼の喧嘩に付き合ったことがあります。拳ひとつで他校の不良と張り合う姿は、やっぱりかっこいい。けど、暴力はいけないと思います。物陰から見ているつもりが、いつの間にか喧嘩の真ん前に来ていて、私は知らない男に後ろから拘束されました。目が合った八文字くんは、カッと驚きに目を剥いていて、そんな目も素敵、なんて思っているうちに、男は地べたで気絶していました。
 いつまで経ってもつれない態度の八文字くんに、ちょっといいとこ見せようかな、と御あつらえ向きに落ちてた鉄パイプを拾い、得意の剣道を披露してみせたのに、やっぱり八文字くんは相変わらずです。あ、でも、その後ご飯に誘ったら付き合ってくれました。嬉しかったなぁ。八文字くんと一緒に食べたチゲ鍋美味しかったし。彼は高校生が二人で鍋行くかよ! って言ってたけど。


2011.10.  塩出 快
作品名:ネオテニー疾走 作家名:塩出 快