小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「新・シルバーからの恋」 最終章 夢の始まり

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
最終章 夢の始まり


「こちらでお願いするか、美雪?」
「そうですわね。場所は文句ないですから条件が合えば私は嬉しいです」
ニコッと笑って社長は付け加えた。

「こんな値段で二度と出ない物件ですよ。副島さんのことですから大サービスです。それに奥様に喜んでいただけたら私も嬉しいですからね。どうでしょう、きれいに整地して大体200坪ですが、丁度という事で・・・」
「税込みかね?」
「かないませんなあ・・・そうさせてもらいます」
「確かに安いな・・・駅まで10分だからな。じゃあ決めよう」
「ありがとうございます。では、いつ契約にお越し頂けます?」
「早い方がいいから、今から寄るよ」
「かしこまりました。では先に戻って書類用意しますから、お食事済まされていらして下さい」
「解かった。世話になるよ」

副島はこれも銀行の関係で知っていた設計事務所に電話を入れた。
「副島です。社長お願いします・・・お忙しい所お世話になります・・・はい、そうです、決まりました。それで設計をお願いしたいのですが・・・はい、明日ですね。お伺いします。ありがとうございます」

電話をしている夫を見て美雪は頼もしく感じた。やはり自分とは住む世界が違う人だったんだと改めて思い知らされた。

「美雪、駅前の白馬車でランチしてから行こうか?」
「あら、ご存知なの?その場所」
「うん、交野(かたの)に友人が居て時々来たから。高校の時だけどな」
「そんな時分に喫茶店に入っていたんですか?」
「そいつがタバコ吸うから、仕方なかったんだよ」
「以外にワルだったんですね、フフフ・・・」
「誤解するなよ!そうじゃないから・・・中学高校と一緒だったんだ。両親が離婚してそいつは交野に引越ししたんだけど、今はどうしているのか・・・」
「ねえ、私たちここでお仕事始めたら、その方に会えるんじゃないかしら・・・そんな気がする」
「美雪・・・そうかも知れんな。いろんな人が来る場所だからな」

美雪は平川から聞かされた、「きっとあなたのよき協力者になる」という言葉を思い出した。今日の契約も副島との縁がなければ叶っていない。お金があれば幸せになれるのかと言えば・・・そうではない。お金があれば幸せに感じられる事はある。副島が変わらずに自分を愛していてくれたなら、両方が叶えられる訳だから最高の幸せに感じられる。

白馬車に入って少し早いランチを採った。久しぶりに入る店内は昔と変わっていなかった。ぐるりと見渡して副島は懐かしい気分になっていた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」水を持ってきた同年ぐらいの女性が聞いてきた。
「いえ、そうではないんです。昔よく来ていましたので変わっていないなあと眺めていたんですよ。すみません・・・ランチ二つ下さい。飲み物はホットコーヒーを食後でお願いします」
「そうでしたか。ランチですね、かしこまりました」

厨房で食事を作っている男性はここのオーナーだろうか、白髪頭の70歳ぐらいに見えた。昔の事なので当時のマスターの顔は思い出せない。ランチが運ばれて来た時に、「マスターは変わられていないのでしょうか?」と尋ねると、「はい、創業時からずっと同じですよ」そう答えが返ってきた。

ちょっと嬉しくなった。今は小さいお店が辞めてゆく時代だから、続けられていることはそれなりに工夫とか努力があるのだろうと見習わなければ・・・そう感じた。
あまり気にしなかったメニューの細かい部分まで二人は気になっていた。話す事は避けたが、こうしよう、ああしよう、というアイディアだけは幾つか考えられたようだ。店を出て感想を話し合った事でそれは共通のこれからの事案になって行きそうだった。

土地の契約を終え、建築事務所の設計も完了して、工事は始まった。完成予定は12月初めと結構突貫工事にした。美雪は神戸市内まで研修のために通っていた。仕事を辞めた行則は工事の進行具合を確認したり、厨房設備を決めたりと店作りに身体を動かしていた。予定通りに二階三階は2DKのアパート8室にして、一階の店舗部分にはカウンター形式の席とテーブル席を分けて横長に配置した。一人で来られる常連客に配慮した結果だ。

店が出来るともうどこにも出かけられないからと言って、美雪は悦子たちを誘い旅行することになった。

「ねえ?美雪、昭子さんも誘ってあげましょうよ。一緒に働く仲間なんですから・・・どう?」悦子は提案した。
「ええ、そうですね・・・来てくれるかしら?私たちは夫婦なのに」
「そうね・・・気を遣うでしょうね、きっと。そうだわ!私と美雪そして昭子さんと三人で同じ部屋にしましょう。副島さんと夫が一つの部屋で、ということにしたら来てもらえるんじゃない?」
「お姉さんはそれで構わないの?淋しくない、ご主人と別の部屋で寝て」
「何言っているのよ二、三日でしょ?平気よ。あなたこそ大丈夫?」
「全然、平気ですよ。でもあらためてすごい組み合わせね・・・私と悦子さんと昭子さんって」
「うん、考えたら・・・そうね。私ね、昭子さんきっと徹くんの浮気に気付いていたんじゃないかと思っているの。相手が私と美雪だとは思わないでしょうけど・・・」
「お姉さん・・・実は昭子さんと始めて会った時に、そのような事を聞かれたのよ。何も答えなかったけど、私の表情や言葉遣いでピンと来たかも知れないって・・・ずっと感じているの。部活の後輩だって知っているし、会った事も話したから」
「言われなくても女って敏感だからね。私が感じたように昭子さんもあなたの存在に何となく気付いたかも知れないわね」
「どうしましょう・・・旅行のときに聞かれたら・・・」
「済んだことだし、本人はもういないから、思ったままで話せばいいんじゃないの」
「そうね、隠すと余計にボロが出そう・・・危なくなったら、お姉さんにバトンタッチするわ」
「何よ!自分だけ逃げようなんて・・・副島さんが怖いのね?」
「そんなんじゃないですよ!あの人、何となく感づいて許してくれているから。順次さんもそうなんでしょ?」
「そうね、本当は全部話して詫びたいって思うけど、墓場まで持ってゆくしかないわね・・・あなたもそうよ。話すのは女同士だけにしておかなくちゃ」
「ええ、そうします」

平川は地味な性格ではあったが、若い頃から車好きだった。大切に好きな車を長く乗っている。この年退職もあったから思い切って車を変えようと悦子に相談した。

「今乗ってるクラウンも10年を過ぎるから買い換えようかと思っているんだ」
「そうですね、もう大きい車なんか必要ないでしょうから、流行のプリウスにされたらどうなの?」
「プリウスか・・・この次はそうしよう。今回は外車にしようかと考えているんだ。生まれて初めてで最後にする。どう思う?」
「お仕事に乗ってゆかないから周りの目は気にしなくていいですよね。そうなされたら・・・私は良くわかりませんからお好きにどうぞ」
「そうか、じゃあ決まりだ。早速今から見に行こう。出来れば旅行に間に合わせて乗って行きたいからな」