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井の中のうわばみ

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■井の中のうわばみ

昔、ある深い井戸の底に一匹のうわばみがいた。
井戸の中、うわばみはすべての生き物の王だった。
ネズミもミミズも、虫たちもうわばみを見れば一目散に逃げ出し、
生贄をさし出して命乞いをする。
うわばみはいつも腹が減れば井戸にあるものを何でも飲み込み、
満腹になるととぐろを巻いて眠り続けた。
ある日、井戸の上の方から一匹の亀が落ちてきた。
今まで見たこともない奇妙な姿をしたこの生き物に、うわばみは興味をもつ。

「おい、お前。お前は一体どこから来た? 
虫のような殻があるのにネズミのような足も持つ。首はミミズのように伸びている」
「私は遠く海に暮らす亀です。台風の風に飛ばされてこの井戸に落ちたのです」

聞きなれない海というものに、うわばみは首を傾げる。

「海? 海とはなんだ」
「海はこの井戸よりも広くたくさんの水があり、この井戸よりたくさんの生き物が住んでいるところです」

うわばみは眼を見開いて驚く。この井戸より先に広い世界があるとは思ってもいなかったのだ。

「海にいる生き物は皆お前みたいな姿をしているのか」
「いいえ、違います。
もちろん私のような亀もいますが、貴方のように身体の長い生き物も、
海を泳ぐ魚という生き物も、空をとぶ鳥という生き物もいます」
「そうか、それは面白い。一度海というものを見てみたくなった。だがその前に……」

そう言い終わるか終わらないかのうちに、うわばみは口を大きく開け、
亀をひとのみにしてしまった。

「ふん。これならネズミやミミズよりは食いでがありそうだ。
海というところに行けば、少しは腹も膨れるだろう」

井戸を出たうわばみは、来る日も来る日も眼に入ってきたすべての物を飲み込んでいった。
魚も、鳥も、亀も、草や木さえも。
いつしかウワバミの身体は山をゆうに超える大きさとなり、
ついには地上にある全ての物を飲み込んでしまう。
すべてを飲み干し、地上に暮らすただ一匹になったうわばみは、
満足そうに舌なめずりをひとつすると、とぐろを巻いて静かに眠りについた。
まるで井戸の中にいるときのように。
作品名:井の中のうわばみ 作家名:一木寸人