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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 14

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『偽りの南十字星』 14

村田は暇を見ては陳の事務所に顔を出す。
同じビルの上と下だから、行き来がし易い。
陳は多忙ながらも出来るだけ村田の相手をしている。
二人は相性が良いのだろう。

普段の村田は、と言うと,マレーシアのペナン辺りに飛んで行き、
問屋の爺さん連中相手に飲んだり駄弁ったりしながら、帰りには
それなりに纏まった魚介缶詰の注文を取って来ては本社の担当
部門に流してやる。

駐在員事務所だから、自分の勘定で売り買いする事は禁じられ
ている。その代わり、駐在経費は全額本社負担で、儲けを出す
必要がないから、気楽と言ったらこの上ない。

或る日、陳の机の上に「会社四季報」が置いてあるのを見て、
「あれっ、陳さん株やってんの?」
と言った。
「・・・・・・」
陳が口を濁して、その小型の本を抽斗(ひきだし)に仕舞った。
村田も特に気に留めない。

二人の間に暫く沈黙があった後、陳が
「村田さん、偽十字を知ってますか。本物の南十字星より見掛けが
大きく立派なので、よく騙されるんですよ」
「・・・・・・」
村田は、突然南十字星の話を切り出されて、妙に思った。

しかし、陳は、それだけ言って、又黙っている。

その時、陳の机の電話が鳴った。
「はい」
受話器を握った陳が、
「村田さん、お客さんだって」

村田は、自分の事務所への階段を下りながら、陳は何を言いたかったの
だろうと考えた。

それにしても、陳の表情が幾分暗かったように思う。


                      続