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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 12

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『偽りの南十字星』 12

暫くして、褐色の肌をした精悍な面構えの青年が喫茶室に現れた。
小柄ながら、筋骨逞しく、何かスポーツをやっている様子である。
彼もバタックかと、永田は思った。
見回していたが、すぐ三人のテーブルに笑顔で近づいて来た。

「Good morning,everybody!」

アメリカン イングリッシュ、しかも完璧なネイティブである。

永田は、先刻空港でインプットされたばかりのバタック族の強烈な印象とは
余りにもかけ離れた、都会風の洗練された、その雰囲気に唖然とした。

陳の紹介で、インドネシアのパートナーとなる船会社オーナーの長男だと知った。
聞けば、アメリカ留学をしていたとのこと、道理で英悟が巧い筈である。
アメリカ式に「ジョニー」と呼んで呉れと言う。
本名は「マリク」だそうである。
今朝、ジャカルタの自宅から飛んで来て、別のホテルにチェックインした由。

スマトラは父親の故郷ゆえ知人も多いと言う。
彼の話では、生食用として、パイナップルは多量に生産されている。
これから、その生産地に向かうが、若干時間が掛かるらしい。

大勢の通行人を掻き分ける様にしてタクシーは走っていたが、郊外に出ると
途端にスピードを上げた。
事故を起こされては、と気遣うが、運転手は全くスピードを落とさない。
気違いの様なスピードでも、2時間掛かって漸く目的地の町に着いた。
車が止まったのは、小さなホテルの庭だった。
永田も玉井もトイレを探して飛び込んだ。

その町の名は、ぺマタンシアンターと言うそうである。

一服の後、早速町の郊外に広がるパイン畑を見に行って驚いた。
何ヘクタールあるのか、兎に角向こうの山の麓まで総てパイン畑である。 
しかも、これは農家一軒分のもので、この他にも何軒かが栽培していると
ジョニーが説明して呉れた。     

町の道端に売られているパインの値段を聞いて、その安さから自家農園までは
必要なしとの印象を強く抱いて、一行は帰途に着いた。


                                続