信長、蘇生せよ、この悲観の中に
信長は柄にも似合わずしんみりとしている。
しかし高見沢は、無神経にそれに追い討ちを掛けるように言い切る。
「信長、お前は天下布武による天下統一の夢実現のために、どれだけ罪のない民を殺してしまったか、自分で認識しておるのか? 実の弟は殺すし、寺も村も焼き尽くし、結局は殺戮のやりたい放題、これこそサディズムの極み、それに酔ってただけだったんだよ」
信長は何も反論せずに聞いている。
「信長、おまえはやっぱり正気と狂気の狭間で、自分の世界だけで生きた天魔だったのだ、ホント、恐ろしい親方様だよ」
信長は、高見沢のこの天魔という言い草にムッとなっている。
「高殿、結果としてそうなり申した、天魔になろうが、すべて天下国家の安寧のための大善、民を戦国の悲観から救い出すためには、仕方がなかったこと、あと一歩で、民が笑える世になるところだったのに … だが無念ながら、本能寺の地下道に埋もれてしまうてのう」
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊