二人の王女(8)
「おまえたちを殺したくはない!お願いだから、待っていてくれ!」
マルグリットの悲痛の叫びも、まるで聞こえないようだった。生ける死人、廃人と化した人々は、人間としての思考や機能を失い、ジョハンセのごとくただの獣と化していた。
「これでは埒があかない!」
アークが叫ぶと、キーチェが云った。
「アズベリーの者たち、先を行け!ここは我々が引き受ける!」
その言葉に、マルグリットらは驚きを隠せないようだった。
「何を云う!ここに残れば、命は危ない!」
「ジョハンセに襲われたあの日、そなたたちに助けられなければ我々の命はなかった!一度は亡くした命!ここでそなたたちに恩を返す!」
キーチェは剣を振り、毒に冒された人間たちを必死にさばきながら云った。ゼブラも叫んだ。
「早く行くのだ!ここで六人もろともに死ぬつもりか!エルグランセに入り、ラズリーの花を得て世界を救うのだ!そなたたちにしかできない!」
「だが…」
「早く行け!偉大なる王女、国は違えど、我々は貴女に、今こそ忠誠を誓おう!」
マルグリットは覚悟を決めた。アークも大きく頷き、馬に飛び乗った。
シェハがあすかの手を取り、急いで馬に乗せる。シェハもそれに続いて、馬に飛び乗った。
「偉大なるサガエル国の騎士!そなたたちの誓い、勇気を、決して無駄にはしない!」
「我々も、ここを切り抜け、必ずエルグランセへ追い掛けましょう!」
その言葉を聞くと、マルグリットは大きく頷き、「行くぞ!」と馬を走らせた。
キーチェとゼブラの背が、どんどん遠くなっていく。さっきまでの喧噪が嘘のように静まり、静閑な樹々の光景に戻った。
「…決して、おまえたちの勇姿を無駄にはしない」
マルグリットは、自身に云い聞かせるように、力強く呟いた。