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金成る手

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■金成る手

ある男が悪魔と契約を交わした。

「悪魔よ! 俺を大金持ちにしてくれ」
「いいだろう。ただし、ただというわけにはいかない」

男の前に現れた悪魔は、この世のものとは思えない恐ろしい声色で男に語りかける。

「おまえには、自分の大切なものを金に変える力を与えよう。
お前が大切だと思うものならものなほど多くの金に変わる」

そう言い残し、悪魔は煙のように消え去った。
不思議な力を授かった男は早速力を使ってみる。

「ものはためしだ。父親の形見を金に変えてみよう」

男が手を触れると、形見は金に変わった。
しかし、どうにも少ない。
手元には一握りの金。

「ええい、これでは晩酌のたしにもなりはしない。次はこいつだ」

そうして手にしたものは、幼い頃から育ててきた愛犬だった。

「お前は俺が手塩にかけて育ててきた犬だ。きっと高価に違いない」

男が触れると犬はたちまち金に変わった。
次は上々。小さな金の山が出来た。

「こいつはすごい。しばらく遊んで暮らせそうだ」

男は犬から出来た金を使い、毎晩酒屋へ出向いては贅沢三昧の暮らしを続けた。
しかし、使えば金は減っていく。
男の手元からたちまち金は消えていった。

「こいつはいけない。次はもっと大切な物を金に変えてやろう」

そう言って、男は自分の母親と妻を部屋へ呼び出した。

「自分の親と妻は犬より大事なものだ。きっと前より多くの金になる」

男が触れると、たちまち母親と妻は金に変わった。
男の目の前には部屋いっぱいの金の山。

「はっはっは!! こいつは笑いがとまらない」

男は袋いっぱいに金を詰め込んで、意気揚々と酒場へ繰り出した。
男は来る日も来る日も贅沢三昧。
金が少なくなれば身の回りのものを金に変えていった。
しかし、金はいつかは消えるもの。
いつしか男の手元にあった金はたった一握りになっていた。
だが、困ったことに男にはもう大切な物はない。
住む家も、共に暮らす人間も、なにもかもをすべて金に変えてしまった。
途方に暮れた男は、一握りの金貨を見つめる。

「俺に残ったのはこの一握りの金だけだ。今、大切なものといえばこの金ぐらいだ」

そう男がつぶやくやいなや、男の掌から止めどなく金が溢れでてきた。
流れ出る金の勢いはとどまることを知らず、ようやく流れが止まったときには小高い金の丘が出来ていた。
あっけに取られていた男はしばらくして高笑い。
男は生涯贅沢三昧。
作品名:金成る手 作家名:一木寸人