当然の彼方 第四話
魔女
唇にまだあの感触が残っている
思い出すだけで赤面してしまう
俺は顔をうつむけて必死に表情を悟られないよう努めた
何を言ったらいいのかすらわからなくて口からポツリポツリと意味不明な単語が飛び交う
気が動転してどうにかなってしまいそうだ
「今の接吻は私のことを思い出していただくためのまじないの様な物です
きっとしばらくすれば思い出していただけるはずです
ですが、その前に私のことをお話しましょう」
ソエルは不敵な笑みを浮かべながら紅茶を口に運んだ
その姿が妙に怪しく、優雅で様になっていた
格好は変なのに元はどこかの令嬢だったのではないかと勘違いしてしまう
「私は魔女です」
唐突に口に出したのはおとぎ話に出てくる単語だった
普通に考えたらそんなものありえるわけがない
だが、ソエルの言葉には重みと現実味が酷くこもっていた
嘘だなんていえない
「…魔女?」
俺はなんとも言えずオウム返しに言葉をつなげることしかできなかった
混乱しきった頭をどうにか冷静に保とうとするがあのキスのせいでどうにも難しい
頭から湯気が出そうだ
「はい。ですが、シオンの想像している魔女とはまったく異なります」
魔女といったら魔法を使ってほうきで空を飛ぶイメージが強い
だが、ソエルの言う「魔女」とはそれとは別物らしい
やっと少し冷えてきた頭だがイマイチソエルの言うことはピンとこない
一呼吸つきたくて、紅茶を口に運んだ
「魔女とは魔術師のなりそこない
私を創生した神すら魔女のことなど忘れてしまう。そんな存在です」
スケールが大きすぎてついていけない
ただ、わかることはソエルが苦しそうにそれを語っているということだけだ
「魔術師は魔術を使い人々の願いを叶え、この世を監視する傍観者のことです
この魔術師はこの世が終わるごとに死に、また来世で魔術師として生まれ変わります
魔女はそのなりそこない
つまり、魔術は使えたとしても監視の役割を持つことができない。死ぬことができないんです」
年季の入った言葉は若々しい声でつむがれる
その年季のこもった言葉の理由はこれだったのかと納得した
ソエルの言うことは人間離れしすぎてよくわからないが、ソエルがずっと生き続けているということはいくら頭の悪い俺でもわかる
監視とか傍観者なんて意味がわからないが、ソエルはただ寂しく悲しいということもわかった
でも、ソエルはそれを教えてどうしたいのだろうか
そこがわからない
「こんな私のために真剣に悩んでくださるんですね
うれしいです」
弾む声音
表情は子供らしい
でも、なんだか分厚い一枚の壁が俺とソエルの間にある気がする
なんなんだろう
この、絶望感
「そろそろ時間でしょうか
おやすみなさい、シオン」
その声と同時に俺の意識は離れていった――
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あとがき
ソエルさんは魔女なんですよ
そして魔女の設定濃っ!
んーし、仕方ない!←
すみません…
読んでくださってありがとうございました!