『偽りの南十字星』 7
『偽りの南十字星』 7
第2章 甘い蜜
1975年
東京銀座に本社を持つ籐和産業は、いわゆる戦後生まれの新興の中堅商社
だが、食料品の国内および輸出入の扱い額では大手商社も一目置く存在である。
最近、或る問題が頭痛の種となっている。
それは、扱い品の一つであるパイナップル缶詰の供給量の激減である。
従来台湾産を扱っていたが、昨今供給量が急激に減少し、国内向けのみならず、
主として米国向けにも支障を来たし始め、このまま放置すれば、総ての顧客を失い
かねない状況にある。
つまり、新たな供給源の確保が急務となっていた。
取締役食品本部長永田市郎は部下の輸出部長玉井和夫を同行させ、シンガポール
へ出向いて来た。
目的は、パイ缶の供給源探索である。
とは言うものの、パイ缶の生産はフィリピンとマレーシアしかない。
フィリピンは、従来熾烈な競争をして来た米国業者の直営工場であり、協力して呉れる
筈もなく、こちらも頭を下げにくい。と言うより、永年の顧客を取られかねない。
残るは、マレーシアだが、英国向けの小サイズしか扱っておらず、米国向けには向かない。
どうすればよいか。
新たな供給源を自ら造るしかあるまい。
供給源と言っても、缶詰工場建設のみならずパイナップルの栽培も必要となろう。
かなりの資金手当てが必要と予想される。
続
作品名:『偽りの南十字星』 7 作家名:南 総太郎