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夏風吹いて秋風の晴れ

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車の前で


「おやすみなんだね?弓子ちゃん、こんにちは」
あわててホースから水を出すのをとめに蛇口をひねっていた弓子ちゃんの後姿に直美がだった。
「あっ、はぃ。こんにちは、直美さん、劉さん」
「うん。車洗ってたんだ・・もうおしまいなの?」
直美が叔父の車を眺めながらだった。
「もう少しなんですけど・・」
「じゃぁ、気にしないで、続けて・・もう少しなんでしょ?」
「はぃ、この辺の後ろと あとはタイヤかな・・初めて洗ってみたから どうなのか・・よくわかんないですよぉ」
「そっか、初めてなんだ。これって洗ったらワックスとかかけるんだっけ?ねぇ、劉?」
振り返って、直美がこっちを見ながら聞いてきていた。
「うーん、洗っただけなんでしょ?だったら そうかも・・でも、何をつかってるのかは叔父さんに聞かないとかも・・・後ろのトランクにはいってるのかなあ・・・」
「あつ、こっちだと思います」
弓子ちゃんが、足元の少し後ろに置いてあった、作業箱みたいな取っ手のついたブラスチックの箱を指差していた。けっこう大きめな箱で、どうやらそこに全部いろんなものが入っているらしかった。
「そっか、でも、全部、洗ってからだね、弓子ちゃん」
「はぃ、お二人はどうぞ、中にあがってください。私は、もうちょっとがんばりますから。叔母さん待ってますから・・・」
ホースのつながれた蛇口の栓をまわしながら、俺たちにだった。
「じゃぁ、挨拶したら 戻ってくるね、一緒にやろうか?楽しそうだもん」
直美が返事をしていた。
「大丈夫です、あがって ゆっくりしてください」
「はぃはぃ、じゃぁ 後でね」
直美がうなづいて、笑顔を見せていた。
「はぃ」
「あっ、純ちゃんは?おうちの中なの?」
玄関に足をすすめた直美が立ち止まって弓子ちゃんにだった。
「いままで、一緒だったんだけど、暑そうだったから帽子と、タオルとっておいでって、言ったから、戻ってくると思うんだけど・・手伝うって言って、ブラシで車をこすって遊んでたんだけど」
「そっか、純ちゃんも手伝ってたんだ。えらいなぁ」
「でも、遊んでるみたいなものだから・・水遊びって感じです」
「でも、それでも えらいわよ、いい妹でいいわね、弓子ちゃん。元気なの?純ちゃんも?学校かわったけど平気そう?」
「ちょっと心配したんだけど、明るい子だから、元気にしてる。喜んで朝も、学校いくから大丈夫だと思ってるんだけど・・うん。大丈夫です。お友達もできたみたいですから」
「そっか、うん、よかった」
「はぃ」
返事をしながら、弓子ちゃんは、ブラシを動かして車を洗っていた。もともと、いつも綺麗な車だったけど、それでも確かにいつもより光ってみえるような気がしていた。でも、そんなことより、弓子ちゃんが一生懸命に叔父の車を洗ってるってことが うれしい事だった。
「あっー 直美ちゃん」
玄関から純ちゃんだった。
「純ちゃん、こんにちは」
直美の返事にあわせて俺もオチビちゃんに頭を下げていた。
「うん。こんにちは 劉ちゃんも、こんにちは」
小さな小学生がきちんと俺にも挨拶をだった。しっかりした子だった。
たしかにきちんと帽子をかぶって帰ってきたようだった。小さな帽子があたまにちょこんとのっていた。
「弓子おねーちゃん、それ、ホース」
純ちゃんは弓子ちゃんに近づいて、水がでているホースを指差していた、どうやら、それを持って車に水をかけたいようだった。
「はぃ、きちんとやってね、純ちゃん、たのむよぉ 私にかけないでね」
「うん」
仲がよさそうな会話だった。
「さて、じゃぁ、ちょっと家にあがっるからね、気をつけてやりなさいよ、二人とも」
直美がはしゃぎながらの純ちゃんと弓子ちゃんに笑顔をみせて話していた。
「はーい」
元気な声が返ってきていた。
すがすがしい秋空にとっても似合った返事だった。

「あら、遅かったわねぇ」
家に上がりこむと叔母に言われていた。
「ちょっと、教会に寄ってたし、すいません」
台所でなにか忙しそうにしていた叔母に答えていた。
「ちょっと、座っててね 直美ちゃんもね。いま お茶ですから」
「叔母さんいいです、自分でやりますから・・」
言いながら直美が、手馴れた手つきで 日本茶を入れだしていた。自分と俺とにだった。
「ごめんなさいね、すぐに終わるから」
「いいえぇー 終わったら少しだけ時間くださいね」
「はぃ、すぐだからね」
「はぃ お願いします」
直美が返事をして 俺たちは大きなソファーで日本茶を飲みだしていた。家には叔父はみあたらなかった。
「劉、だしといて・・」
「うん?あっうん」
直美がきちんと箱にいれて叔母に返すネックレスのことだった。直美のトートバックは俺の横においてあった。
「はぃ、これね」
「うん、なにか聞かれても困っちゃうから、弓子ちゃんたちが外に居る間に先にね」
「うん、そっか」
「うん。気にしなくてもいいんだろうけど、なんだろうって、やっぱり思うでしょ。説明むずかしいし」
「うん、まぁ それでいいんじゃない」
「うん」
二人で、にっこり顔を見合っていた。
直美の胸には、祝福を受けたばかりのクロスのネックレスがここでも、しっかり綺麗に輝いていた。
叔母にも、この新しいネックレスを早く見せたかった。見分不相応の買い物だったけど、きっと一生忘れない直美へのプレゼントなるはずだった。
ずーっと 直美と一緒に輝いてくれればって眺めていた。
直美が笑顔で、そんな俺をうれしそうに見ているようだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生