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夏風吹いて秋風の晴れ

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新しい生活が動いているようだった


寿司屋での食事会が過ぎてからは、俺と直美は少し赤堤の家とは距離を置いていた。二人で話して決めた事ではなかったけれど、自然と直美と考えが一緒のようだった。
それに直美も俺も大学の授業が始まっていたし、バイトもしていたからそれなりに忙しい日常を過ごしていた。授業の無い日は下北沢の会社で、夕方も時間があれば会社の席に座っていた。
弓子ちゃんが会社に訪ねてきたのは、寿司屋で別れてから1週間もたってからの事だった。
大きなスポーツバックを抱えて弓子ちゃんは現れていた。
「バスケット部に入ったんだ?」
会社の奥に案内しながらだった。店長も、弓子ちゃんの顔を見て社長の娘だとわかって、頭を下げて、一緒に奥に案内をしていた。
「はぃ、まだ3日目ですけど・・」
「そっかぁー これぐらいまで練習なんだ・・」
時計を見るともうすぐ閉店時間の7時になろうとしていた。
「着替えると、これぐらいになっちゃういます。更衣室がちょっと狭いので先輩達が先に着替えるんで・・」
「ふーん どう? レギュラーとかなれそう?」
「無理ですよぉー 私立だからレベル高いですもん・・でも、がんばります」
「うん。試合出るようになったら直美と応援行ってあげるよ」
「うわぁー うれしいけど恥ずかしいから・・遠慮します」
首を横に振りながら笑顔をみせながらだった。
「えっと、あと5分で帰れるけど、一緒に帰る?」
「はぃ」
気持ちのよぃ返事が返ってきていた。

「で、なに?今日は?」
会社をでて駅までの道で弓子ちゃんに聞いていた。結局閉店時間前に会社を後にしていた。店長が「帰っていいよ」って俺に気をつかったわけではなく弓子ちゃんに気を使ってのようだったから甘えて先に帰らせてもらっていた。
「純ちゃんが家にくることが正式に決まったので、その報告です」
「へぇー そうかぁー 早かったね、もっと時間かかるかと思ってた」
話がとんとんすすんでも来月あたりなのかぁーって思っていたことだった。
「わたしもです」
「そっかぁー やってくる日とかは決まったの?」
「来週の土曜日なんですけど・・」
「そっかぁー 早いなぁー 」
「で、叔母さんがお手伝いはいいけど、夕飯を直美さんと食べにいらっしゃいって言うようにって・・言われてきました」
「えっ、あぁー そうなんだ・・叔母さんの伝言をね・・そっか、うん、調整してみるわ、バイトの仕事だったら、ちょっと遅れて行くから・・そう言っておいてくれる?直美には言っておくから・・」
「はぃ、お願いします」
体育会系の元気な返事が返ってきていた。
下北沢の駅の階段を昇って、改札を抜けると弓子ちゃんと同じ制服姿の女の子が話しかけてきていた。
「おつかれー 今帰り?どこだっけ、家?豪徳寺のほうだよね」
弓子ちゃんに近付いてだった。
「うん、そこからちょっと歩くけど」
「そっか、わたしは代々木上原だから、逆だね」
日に焼けた顔の女の子だった。手にはテニスラケットが握られていた。
「あっ すいません、挨拶しなくって・・同じクラスのクレアっていいます。おにーさんですか?」
俺にきちんと頭を下げながらだった。
「こんにちは、よろしくね、同級生なんだ」
笑顔の中学生に答えていた。クレアって言ったけど、日本人なんだよなぁーって顔を見ながらだった。
「あっ、クレア、おにーさんじゃないから・・」
弓子ちゃんがあわてて口を挟んでいた。
「えっ、違うの?」
「うん」
「じゃぁー えっと・・」
考えているようだった。
「えっとね、弓子ちゃんは従兄妹ね、よろしくね」
答えずらそうにしていた弓子ちゃんより先に声をだして俺が答えていた。クレアって子は、弓子ちゃんが養女だってことは知らないことのようだった。
「はぃ、こちらこそ、あっ 電車来ますからまた、おやすみー」
「うん、おやすみー」
手を振りながらの弓子ちゃんの声と同級生の元気な声が響いていた。
階段を降りて下りのホームに降りるとちょうど下りの各駅停車の電車がやってきてその中に乗り込んでいた。
「仲いいんだ 同じクラスって言ったっけ、今の子? 名前ってクレアって言ったよね?ハーフとかなわけ?」
つり革を握りながら弓子ちゃんに聞いていた。
「4分の1みたいですよ。おじぃちゃんがドイツ人って言ってたかなぁー 最初に仲良くなった子」
「そっか・・明るくていい子だな」
「うん」
「今度、家にでも呼べばいいじゃん・・」
「えぇー どうだろう 泊まりでですか?」
「おっ いいかもね、でも、最初は泊まりじゃなくてもいいんじゃない?」
「そうか、そうですね・・」
電車の中なので気にしながらの笑い声が聞こえていた。

「どうする?ご飯は直美が作ってるけど、寄っていく?帰りは世田谷線に乗ればすぐに帰れるし・・叔母さんには電話するけど・・」
豪徳寺の駅を降りて弓子ちゃんに聞いていた。
「あっ、でも、今日は帰ります。叔母さんきっと、夕飯準備しててくれるから・・」
「そっか。そうだな」
「じゃぁー 気をつけてね、叔母さんに土曜日は時間はわからないけど行くって言ってね」
「はぃ、では おやすみなさい、直美さんも一緒に来てくださいね」
「うん、一緒にね」
弓子ちゃんは右手に俺は左にだった。
弓子ちゃんは、赤堤の叔母のことを、あいかわらず叔母さんって言い方だったけど、それは俺に対してだからなのかを聞くのはやめていた。
直美なら、「まだ、叔母さんって呼んでるの?だめだなぁー」って笑顔で言うのかなぁーって思いながら商店街を抜けていた。急にプリンが食べたくなって、直美が好きなケーキ屋さんに立ち寄って小さな箱を抱えながらだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生