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夏風吹いて秋風の晴れ

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窓から外に


小さい頃の俺に中にあった記憶のこの部屋はもう、まったくなくなっていた。もう、ここは次の新しい人間をきちんと待っているようだった。
「ここからの景色って、いいよねー 2階なのに隣の教会の庭が広いから、遠くまで視界ひろがってていいよねー」
直美が窓から外に顔を出しながら気持ちよさそうな声をだしていた。
「夏だから、教会の芝が緑いっぱいだもんね」
直美の横に移動して、二人で外の景色を眺めていた。もちろん、都会のど真ん中だったから、遠くに山が見えるわけでもなかったし、住宅が遠くまでいっぱいひろがっていたけど、教会の木々の緑がそれをさえぎって、都会では贅沢な景色だった。
「あとで、久しぶりに教会をお散歩しようか?」
「うん、いいよぉー でも、ステファンさんに 草むしりしろって言われないようにしないとな・・子供の頃よくいわれたからなぁー」
「いいじゃない、久しぶりだと、それも楽しいかもよ。考えたら全然してないね、そんなこと」
「そうだなぁー 中学生ぐらいまではしたかなぁー 学校の校庭とかさせられなかったっけ?」
「したした、夏ごろにでしょ?」
「たぶん、そう。高ほうきとかで庭の掃除とかも、しばらくしてないなぁー」
「うん、学校とかではしたのにね・・」
「高校って庭とか掃除したんだっけ?忘れたなぁー 教室はしたけどなぁー」
「そうだね、中学校ではしてたなぁー わたしも・・」
「高校のときは、俺なんか、掃除してから部活いくと先輩に怒られたから、けっこうさぼってばっかりだったなぁー」
「そうだっけ、2年生のときに、私と掃除いっしょにしたじゃない」
「それは、夏ごろからだと、もう、先輩は部活抜けてたし、一緒にいたかったから、掃除してたんじゃないかなー」
「へー なるほどぉー 」
うれしそうな顔でこっちをみながらだった。
「あっ、そうだ、劉さ、弓子ちゃんが来ても、たぶん引越しってすぐに終わっちゃうと思うから、一緒に教会の庭掃除しようよ。楽しそうだもん。土いじりって、しばらくしてないから、おもしろそうだもん、ねっ、やろうよ。暑いけど、汗かいたら気持ちいいよぉー きっと」
「大丈夫なの?暑いけど・・」
外はもっと暑くなりそうな、そんな天気だった。
「うん、決まりね。家族みずいらずにしてあげなきゃね」
「そっか、じゃぁー やろうか」
「よーし、やるかぁー」
直美の元気な声につられて俺も元気な声をだしていた。

「そろそろ、来るかなぁー あそこの角から曲がってくるんだよね。叔父さんの車と、トラックなのかなぁー 」
直美が、まだかなぁーって顔を浮かべて聞いてきていた。暑いのに二人でずーっと窓から顔をだして話を続けていた。
「トラックっていっても、小さなのじゃないかな・・弓子ちゃんの荷物はそんなにないでしょ?」
「うん、そうだね」
「すぐに終わっちゃうね、きっと」
「劉、叔母さんから、お昼とかどうするか聞いてる? なにか準備したほうがいいのかなぁー どうしよう?」
「言われてないしなぁー 出前とかとっちゃうのかもよ・・大丈夫だよ、心配しなくっても・・叔母さんしっかりしてるから、考えてあると思うよ」
想像だったけど、答えていた。トラックがやってくれば、きっと、引越しはすぐに終わって、それから準備したとしても、少しだけお昼が遅れるだけで済むような気がしていた。叔母さんだけだと、大変かもしれないけど、直美が居ればってだった。
「料理するのかなぁー 冷蔵庫のぞいちゃおうかな?」
「いいって、もうすぐ来るって」
「そう?」
「うん。そろそろでしょ、ほら」
びっくりしたけど、本当にいいタイミングで叔父の車が教会の角を曲がるのが目に入っていた。
「ほんとだぁー 来たぁー なんかドキドキしちゃうんだけど・・どうしよう」
「ドキドキしちゃうか・・」
「うんうん、ちょっと緊張しちゃう」
こっちをきちんと向きなおして直美が言っていた。そんなことを、めったに言うことはなかったので、なんとなく、新しい発見って感じだった。
「さっ、降りようか?」
「うん、ねぇ、緊張してないの?劉は?」
「えっ、俺?うーん、ほっとしたってほうがあってるかな。言わなかったけど、少しだけ心配してたから・・こなかったらどうしようって・・」
「そんなこと考えてたんだ・・弓子ちゃんなら大丈夫って、わたしは思ってたから、そんなことって全然思ってなかった」
「へー 口にださないだけかと思ってた」
「めずらしく、考えちがったんだね。ま、いいか、さぁー 行こう」
直美の手が伸びて、左手をしっかりとつかまれていた。もう、ドキドキって顔の直美ではなかった。うれしそうって顔にはっきりと変わっているようだった。
「ねぇー 劉さぁー 引越し終わって、お昼たべて、教会の庭いじりしたら、早く帰ろうよ」
「えっ、なんで?」
「えっーとね、なんだか朝から、今日は二人っきりで一緒にいたいんだよね。いいでしょ?」
恥ずかしそうな顔でもなく、堂々と言われていた。返事の代わりに、唇に短くキスをだった。
体を離すと、今度は恥ずかしそうな直美だった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生