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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 6

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『偽りの南十字星』 6

海岸(当時とは眺めが変わったが、エリザベス ウォーク辺り)に
着いた英明が目にしたものは、数え切れない程の水死体であった。
父の総民を捜そうにも、余りにも沢山の数に圧倒されて、只その場
に立ち尽くすばかりだった。

既に大勢の人が押しかけている。
死体に取りすがって泣き叫ぶ人もいた。

英明の頭の中で、「トウドウ」の名がグルグル廻っている。

あの憲兵隊の「トウドウ」は、自分の実の父親ではないか。
死んだかも知れない実の父親、「トウドウエイゴ」は生きていたのではないか。
母と自分を何故捨てたのか。
二人に何をして呉れたのか。
ここまで自分を育てて呉れた大切な父親を、殺しただけではないか。

まだ子供の英明にとって、同じ名は、即同一人物に思えて仕方がなかった。

日本による統治が始まって、シンガポールは「昭南島」となった。

その後英明は、事情を知った、親切な日本人商人に拾われ、日本人町の
食料品店に住む込みで働くことになった。

しかし、僅か3年半で日本による統治は終わりを告げた。
1945年8月、日本は敗戦国となったのである。
チャンギ刑務所の囚人も英国人捕虜から日本軍人に代わった。

立場が逆転し、日本人町も寂れ、結局英明の働いていた店は閉業に
追いやられたが、陳の苗字が幸いし、華僑系の貿易会社に働き口を
見つけることが出来た。
それからの英明の成長には目を瞠るものがあり、遂には社長に見込まれ、
マレーシアのクアラルンプール支店を任される程になった。

英明は時折思い出すのだった。
「トウドウ」は、どうなったのか。

                                      続