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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 5

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『偽りの南十字星』 5 

養父の総民が憲兵隊に連れて行かれた後、英明は呆然と佇んでいた。

集合場所に出向かなかったから迎えに来たのだろうと考えたいのだが、
父に対するあの乱暴な扱いを思うと、胸騒ぎがしてならなかった。
いっそ、その集合場所に行ってみようと、外に飛び出した。

街の路地や大通りを走って漸く集合場所に着いたが、広場には誰も
いなかった。
何処へ行ったのだろう。

夜になっても、総民は帰って来なかった。
英明は口にする食事もないまま、空腹を抱えて寝床に入った。
翌朝早く叫び回る大声に目を醒ました英明は、何事かと表に出て見た。

「大変だ、大変だ。海岸に死体が沢山打ち上げられてるよ」

寝ぼけ眼(まなこ)で、眺める英明に気付いて、
「坊や、あんたの父ちゃんも連れて行かれたんだろ」
と、隣の家の痩せた小母さんが聞いて来た。

英明は返事をしたくなかった。
黙っていると、

「昨日集められた大勢の人が、日本軍に殺されたって話だよ」
「殺された、それほんと?」
「ほんとらしいよ。海に沢山死んだ人が浮いてるんだってさ」

英明は、突然走り出した。
海岸に向かって。

                                 

                              続