『偽りの南十字星』 4
『偽りの南十字星』 4
自分の父親が日本人であることを陳が知ったのは、母が息を引き
取る寸前に語った真相を耳にした時だった。
日頃は口にしなかった日本語で母は言った。
「あなたお父さん日本人。生きてる、死んでる判からない。名前
トウドウエイゴ。あなたヒデアキ」
当時台湾や現在の韓国、北朝鮮などは日本の植民地であり、いわゆる
皇民化政策により日本語教育が行われていた。
従って、陳も日本語の読み書きが出来た。
陳は驚くと共に、子供ながら非常に複雑な気持になったことを思い出す。
養父の総民も知らなかったことらしく、かなり驚いた様子だった。
心の底に澱む激しい反日感情の故に、素直には受け入れにくかったであろう。
総民の父親は台湾共産党員であったが、独立を掲げる抗日運動中に総督府
の厳しい弾圧を受けた。結局、逮捕され、獄中死している。
しかし、総民の英明に対する態度は、これまでの10年と変わらず、何時も通り
優しさに満ちたものであった。
続
作品名:『偽りの南十字星』 4 作家名:南 総太郎