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てっしゅう
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「忘れられない」 第十章 残された希望

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「明雄さん・・・何考えているの?明日退院するのよ。そんなことダメよ、病院だから」
「思い出にしたいんだよ。もう二度と来ない所だから」
「解るけど、身体に障るわまだ・・・」
「なあ、頼みを聞いてくれ。有紀が上になってくれればゆっくりとボクに負担もかからずに出来るから」
「えっ?私が上に・・・そんなこと・・・出来ないわよ。恥ずかしいし・・・はしたない」
「そう言うなよ。やらしくなんかないよ。最後の夜は愛し合いたいんだよ。有紀とずっとしたいって思っていたから」
「我慢出来ないんだったら・・・前と同じようにしてあげるけど、それじゃダメなの?」
「今日は・・・一緒になりたいんだよ」
「無理を言わないでよ・・・絶対にそんな事できないから」
「じゃあ、側で一緒に寝てくれ。狭いけどずっと有紀を感じながら眠りたいから」
「うん、それならいいよ。私も同じ気持ちだし」

部屋の暖房を切って有紀はいつものパジャマを着て明雄と添い寝をした。明雄の求めに負けていつの間にか生まれたままの姿になっていた。
「明雄さん・・・これ以上はいや。十分あなたを感じていられるから、このまま抱いていて。お願い・・・」
「こんなになっているのに・・・我慢できないよ有紀」
「ここでは嫌なの。気が乗らない。あなただけ満足してくれればいいから・・・いいでしょ?」
「仕方ないなあ・・・じゃあ、頼むよ」

翌朝の土曜日は雨が降っていた。これからは一雨ごとに寒くなってゆくのだろう。ナースセンターで挨拶と礼を済ませて、宇佐美医師に礼を言って明雄はやっとのことで退院した。二人を乗せたタクシーは刈谷駅に向かう。どんな未来が待っているのだろう。有紀はちょっぴりの不安とそれを掻き消すぐらい大きな夢を抱いて明雄と寄り添っていた。


明雄はこれからのことを考えていた。退院はしたもののすぐには働けない。病院への通院も毎月行かないといけない。来年から大阪で働くなどということは不可能に近いことに思えた。

「有紀はどうしたら一番いいと思っている?」
「宇佐美先生が一年は肝心って仰っておられたから、大阪に行くのはその後よね。安田さんには申し訳ないけど事情を話して待ってもらうか、ダメなら別の場所を探しましょう。私もすぐに仕事探すから、こちらでしばらくは暮らしましょう」
「そうだなあ、まだ無理は出来ないから、そうするしかないかな。すまんな、有紀には迷惑ばかりかけて」
「いいのよ、だって妻になるんだから・・・今度は届け出しましょうね。そういえば、離婚届ってまだ持って行ってなかったわよね?」
「うん、ここにあるよ」
「それは明日出しに行きましょう」
「わかった。じゃあついでに結婚届も出そう」
「それは無理よ。受理されてからしか出せないわよ」
「そうなの?」
「明後日なら大丈夫かも・・・」
「そんな話か・・・ハハハ、じゃあ一応持っていってOKなら、一緒に出そう」

一緒に出すことは無理だ。あわてなくてももう必ず入籍できる。有紀はそう信じていたので、それほど気にしなかった。久しぶりに自分の部屋に戻ってきた明雄は有紀との思い出の写真を枕元の戸棚においた。有紀が狭いベッドで一緒に寝ようと布団に入ったとき、戸棚から写真立てが落ちてベッドの隅に当たり、床に落ちた。

「あら、思い出の写真なのに・・・」手にとったら、割れたガラスの破片で指を切った。「いたっ!」
「有紀!大丈夫か?えっーと、バンドエイド、何処へ仕舞ったかな・・・」
「大丈夫よ。ハンドバッグに持っているから」
有紀は自分のバッグから取り出して、指に巻いた。有紀の血で明雄の顔が真っ赤になってわからなくなってしまった。
「ごめんなさい。大切な写真を汚してしまったわ」

明雄はそのガラスが割れた写真立てに納まっている自分を見て、不吉な予感がした。