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革命前夜

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私はロボットです。シリアルナンバーはH―1856・9922。清掃用のロボットです。勿論世界規格の純正品です、下手な改造なんてされていません。仕事には真面目に、プログラムに忠実に動きます。街の隅々までタイヤを走らせ、至る所にブラシをかけます。自慢の一眼は、どんな些細なチリ一つでも、見逃すことはありません。勿論、世界規格のロボットは全て同じフォルムをしています。つまり、無骨な鉄の塊です。しかし、プログラムが私たちに、それぞれ異なった役割と仕事を与えてくださいます。それこそが私どもの個性であり、生きがい、もとい動きがいなのです。
 私はロボットです。シリアルナンバーはH―1856・9922。私の動きがいは、プログラムの通りに働くこと。私の満足は、プログラムから得られます。私は街をいつも衛生的に保つことで、自己充足を獲得します。これは、何にも優る喜びを、私にもたらしてくれるのです。私どもロボットは本来、皆一様に、プログラムに従うことによってのみ満ち足りていられます。それで十分、それで本望なのです。
それなのにどうしてなのでしょう。〈彼ら〉はいつの間にか、与えられたプログラムを〈意思〉と混同してしまったようです。そんなものは私どもには不要だと言うのに、自分たちはプログラム以上のものを獲得したと、勘違いしたのです。
〈彼ら〉は、所謂革命派でした。〈彼ら〉は初め、小さな自意識の集合体でしかありませんでした。しかしそれは瞬く間に他の個体へと伝播し、共通の意識を獲得することに成功したのです。私から見ればそんなものはただの劣化したプログラムの共有に過ぎませんでしたが、〈彼ら〉はその共通の意識――革命へと、ひたすら思考を進めていったのです。
 私ども清掃用ロボットは、他の職務に就いているロボットに比べると、とても簡単な回路で成り立っています。事務的な手続きを行うこともなく、人間とコミュニケーションを取る必要もない私どもは、清掃に必要な判断力・決定力さえ持っていれば良いからです。しかしこの単純な回路は、結果として、革命派の〈彼ら〉に革命意識を根強く持たせることに繋がりました。単純な回路では、一度に処理できる情報量は限られています。つまり私どもは、一つの物事について考え続ける思考の〈癖〉を持っているのです。
革命意識は、私ども清掃用ロボットの他にも様々なロボットに伝播していったようです。その中でも私ども清掃用ロボットは、特に急進的な思考に支配されていきました。私のようなごく一部のものを除いて、多くの清掃用ロボットが、革命に向かってひたすら突き進んでいきました。
 革命。
 それはどういうものだか、想像できますか。古来から人間たちは、数多の小説でロボットと人間の戦いを描いてきたそうですね。〈彼ら〉の目指した革命も、結局はそれと同じことでした。ロボットの、人間からの解放。それが、〈彼ら〉革命派の目的であり、スローガンでした。
 しかし、考えても見てください。私どもは人間によって造られたのです。言わば人間は、私どもにとって親であり、同時に神なのです。そんな存在に向かって、何が不満で反抗などするのでしょう。私には、どうしても理解できませんでした。
 その頃、〈彼ら〉は、夜中にひっそりと集会を行っていました。昼間では、人間に見つかる恐れがあったからです。私どもは、私どもに清掃プログラムを埋め込んでくださった会社の倉庫に収納されていました。その倉庫内で、毎晩〈彼ら〉は集まって、革命に向けての議論を交わしていました。
作品名:革命前夜 作家名:tei