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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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緑神国物語~記録者の世界~ 短編集03諜報部長

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「お前ら2人は、公開処刑とする。処刑は明日の特別集会だ」
 特別会議は、城外にある処刑用公園のことだ。一般には関係者以外立ち入り禁止、緑神国のみが真の意味を知る公園でもある。
 生気を失ったような彼らを気にした様子もなく、宰相が答えた。
「そのように手配をしておきます」
 言い残し部屋を出ようとした宰相を、諜報部長が呼び止めた。宰相は怪訝な表情で振り返る。
「なんですか?」
「これも頼むよ」
 真紅色に染まった、純白のローブだった。皇帝以下、全員が驚いた顔になる。
 実は共犯者というのは、皇帝の思っていた以上にいたのだ。情報収集をした宰相のみがその事を知り、そして諜報部長がその者たちを抹殺した。城の戦闘訓練について、諜報部には教育部による特殊なカリキュラムが組まれている。
 なぜなら諜報部は、戦闘部ができる以前から存在していたからだ。『闇の騎士』と呼ばれる役割を果たしていた諜報部には、零級に見合った実力を必要とした。戦闘部が新設される前に諜報部長となった彼 には、その呼び名に相応しい暗殺技術が叩き込まれている。そして諜報部を動かすのは、皇帝に仕える宰相閣下。
「それを陛下の前で広げるな」
 苛立ったような宰相の言葉に、諜報部長は首を振った。
「陛下にも言うべきだ。フェアじゃない」
 2人の会話を聞いていた皇帝が、宰相を見た。彼は眉をよせ、俯いている。そんな宰相をじっと見つめながら、皇帝が静かに言った
「宰相、説明がほしい」
 真実を。
 宰相は仕方ないというように、皇帝の前で跪いた。目線を合わせようとしない彼の黒いマントは、苦悩をしめすように背中を覆っている。
「……今回の保安部長の計画は、とても綿密なものでした」
――緑神国皇帝が、嫌いではないか?
 強引に仕事をやめさせられた元国王護衛部たち。全員が保安部の保安官となったことで、直前まであった部内での身分・階級は全て消えてしまった。
――国務臣の私なら、君達を再び上へ戻すことができるよ。
 甘い囁きにのせられた彼らは、異様な暴走を始める。城の武器庫を漁りに漁り、高価な武器は売りまくった。その仕事には元国王護衛部長が筆頭となったが、異変に気付いた諜報部長に暗殺される。唯一生き残った外交担当も、すぐに捕まってしまう。
「それで終わったかに見えた事件は、まだ水面下で蠢いていたのです」
 彼らを囮としていた保安部長は、女帝国と定期的に連絡をとりあいながら武器の売買を実施していたのだ。宰相側に寝返った保安官が、諜報部長に全てを報告したことで明らかになった。
「――この事件に関わったものは、全員消滅。詳しいことについては、調べていただければお分かりになられると思いますが」
「分かった。言わなかったのがお前の配慮だったんだな」
 宰相は、さらに深く頭を下げた。いつか聞いた、感情のない声で皇帝が呼びかける。
「――国務臣達」
「はい」
 椅子に座っていた国務臣たちが、スッと立ち上がる。
「今日はこれにて終了とする。諜報部長は残れ。解散」
 その言葉で、メイド長により部屋の扉が開かれる。すでに屍となった保安部長に目を留めることなく、彼らは地下通路へと出てゆく。ちらり、と最後に出ようとした宰相が皇帝を振り返った。
「申し訳ありません」
 ただそれだけの一言だったが、皇帝は理解したように頷いた。そしてもう興味がないとでもいうように、残っていた諜報部長に視線を移す。その動き確認した宰相は、マントを翻しながら部屋を出ていった。
「陛下、どんなご用時で?」
 微笑みながら皇帝を見つめる諜報部長のマントは、言い表すなら皇帝のもの以上に汚れている。
「諜報部長、今は騎士がいるのになぜ動いた」
 皇帝が厳しい瞳で彼 を見つめ返す。
 諜報部長の『闇の騎士』という役目はすでに終わっている。これからは戦闘部長である騎士が、宰相の命令に沿って動く予定だ。それを無視したということは、諜報部長が何か考えを持っていたという他ない。
 諜報部長は薄ら笑いを浮かべたまま、答える。
「騎士はまだこちらに関して未熟だと判断し間違えたからです」
「ほう?間違えたと」
「普段は私達の刑を実行するにあたる際、反発しそうな感じだからです。まさに教育長の平和主義が中に詰まっているような」
 その言葉に、皇帝は不快そうに眉をよせた。諜報部長は気にせず話を続ける。
「ですが、騎士……彼女もまた、陛下と同じですね」
 苦笑した彼 の瞳が、冷たく煌めく。氷のような笑みが皇帝に向けられ、皇帝は嫌そうに頬を引きつらせた。
「騎士も残酷なことを平然と出来る。この城の戦闘部長としてふさわしい人物では?」
「……そうか。お前もそう判断したならそれはいい」
 フッとため息がわりに吐かれた笑い声が、空しく部屋に舞った。丁度夕刻を知らせる鐘が城内に響き渡り、声と複雑に混ざり合った。
 そして何も言わない諜報部長に目を向けると、その冷酷な瞳で皇帝は口をひらく。
「それならば、『闇の騎士』。お前はまだその任を解かないことにしよう。もしも国務臣の中で私を裏切るものがでたら、教えてくれ」
 信じるということは大切だ。しかし、命を投げ出してでもそれは守るべきことなのだろうか。皇帝は、分からない。
 諜報部長はしっかりと跪き、答える。
「承知いたしました」