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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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緑神国物語~記録者の世界~ 短編集02宰相

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宰相閣下と皇帝陛下



カリカリカリ…

 静けさで満ちたα会議室には、教育長の話し声と、その話を真剣に紙に書き写す音だけが響いていた。今日の会議の内容は、今度行なわれる女帝国との合同研究会の、開催方法についてだ。参加するのは、皇帝や宰相のほかに、ここにいる5人の諜報員。
「いい、宰相閣下の言ったとおりの仕事をすること!」
 教育長は最後にそう締めくくり、今日の会議を終了とした。真面目な表情をした諜報員達が、ぞろぞろと部屋からでてゆく。その様子を横目に見ながら、宰相がα会議室に入ってきた。
「教育長、調子はどうだ?」
「みな良いですね、しっかりと話を聞いてくれます」
 微笑んで教育長が答えた。毎日忙しく働く彼女は、皇帝の世話の無い日だけ穏やかだ。だが暗い表情をしている宰相を認識した途端、さっと顔から血の気が引いた。皇帝が何かやらかしたのか、それとも何か重大なことが起こったのか!?
 会議室の鍵を内側から閉め部屋にいるのが2人だけにしてから、教育長は黙って宰相の顔を見上げた。言い難そうにこめかみを押さえながら、彼は吐き出すように言った。
「実は、陛下のことで少しな」
 宰相閣下が皇帝の事で重い声を発するのは珍しい。皇帝についてはほぼ教育長に任せきりで、彼は国政について意見が合わないときくらいしか悩んだりはしないし、またそれを教育長に打ち明けたりもしないタイプだ。
 わざわざ私に言うということは、なにか教育面での悩みに違いない。考えた末そう思った教育長は、おそるおそる尋ねた。
「閣下、なにかあったのですか?」
「……口外するなよ?」
 普段は見せない凶悪なオーラを漂わせて、宰相は言った。鋭利な刃物を目の前に突きつけられているような気がして、教育長は思わず後ずさりする。
「わ、わかりました」
 冷や汗たらたらな彼女を一度睨みつけると、彼はしばらくしてボソッと呟いた。先ほどまでの緊張感が、波のように引いていく。
「合同研究会で、女帝国と平和条約を結びたいと」
「なっ……!?」
 バサバサッ
 床に、教育長が持っていた書類が散らばった。腕を組みながら壁に寄りかかっていた宰相は、何も言わずに落ちた書類を拾い上げた。
 平和条約をつくってしまうと、女帝国と戦争が出来ない。破ることは簡単だが、ほかの国から信用されなくなってしまう。それに、国民たちは女帝国の避難民にほとほと困らされている。いくら皇帝を信じる彼らでも、許せることではないだろう。
「でも……」
 言いかけた反論を、教育長は途中で飲み込んだ。
 城に仕えるだけの私が「緑神国は平和な国となるべき」などと言う権利はない。その思いが、口をかたく閉ざさせる。軍国主義を嫌う教育長の心は、争いや戦闘が在ることを認めていなかった。しかし親しみを持つ皇帝に逆らいたくはない。誰にも言わない彼女の真意を、宰相は既に察していた。
 遠い目になった教育長に、彼の厳しい瞳が向けられる。
「もしもそれが……」
 夢が叶うのだろうか。
 皇帝はもう戦争や侵略という考えを、捨てたのだろうか。
 だが教育長は、やはり信じられない。それに、おかしなことに気付いてしまった。今まで一緒にいたから分かる、皇帝は教育長の考えるような“馬鹿な”ことを起こしたりはしない。まだ二十歳も超えぬ若い皇帝だが、自分が教育した一人だ。もし思いついたとしても、すぐに却下するだろう。
――陛下は言わないハズだ。
 それならば、宰相閣下は何を言っているのだ。
「教育長、何か?」
 宰相閣下がどこか笑みを湛えた表情で彼女を見返した。どこからどう見ても宰相だ、変装などとは到底思えない。皇帝の悪戯の可能性もあるが、宰相はそんなものに乗ったりはしない。
 教育長は恐怖を振り切って言った。
「その話は本当ですか、閣下?」
 彼はフッと微笑んだ。初めて騎士と話したときの、冷たい笑みに似ている。教育長の無礼な一言にも気にした様子はなく、口を開く。
「ハズレか」
「閣下?」
 意味の分からない言葉に首を傾げるが、宰相は黙って純白のローブを翻し部屋を出て行った。呆然と立ち尽くす教育長は、やがてはっと我に返った。
「とりあえず、騎士の訓練場にでも顔を出すか」
 教育長は訳がわからないまま、忙しい1日を過ごしてゆく。


 皇帝と宰相2人だけの執務室。茶を持ってきた幼馴染のメイド長が去ったことを確認し、皇帝が口を開いた。
「教育長はどうだった?」
「違いました。というか疑われましたよ、私が陛下を貶めようとしているのではないかって」
 深いため息に、皇帝は吹き出した。宰相の周りにブワッとどす黒い殺気が沸き起こり、慌てて皇帝は笑いを収めた。
「陛下、貴方のせいで危うく友人関係が壊れるところでした」
 我慢できないらしく、皇帝は噛み締めた唇から笑い声を零す。宰相は友人と言うが、彼自身は城内の仕事の間、誰とも完璧に友好気配をだしていない。
「お前は友人が少ないからなあ。俺と教育長、メイド長と諜報部長と……騎士もか?」
「黙ってください、それに貴方とは主従関係ですから」
 不快そうに眉を寄せる宰相に、皇帝はメイド長にだされたチョコレートを一個放った。宰相はキャンディのような包装紙からアーモンドチョコを取り出し、皇帝に礼も言わずに口に投げ入れる。
「で、目星は?」
 唐突に言った皇帝の瞳は、鋭い。
 最近、緑神国で作物の取れ高が低い。特殊な種を使うこの国の作物は、甘蓮睡と呼ばれるトマトにそっくりの野菜だ。2月の後半に種を蒔き、3月の終わりには収穫できる。今年は去年以上に冬が寒く、女帝国の避難民が来るのは予定より遅くなりそうなため、今のうちに作物を城に隠しておく算段だ。なぜなら、偽の情報だけでは避難民を防ぎきれない可能性があるからだ。
 それだけでも皇帝の頭を悩ましているのに、今はそれ以上の事件が城で起こっていた。
「おそらく、保安部のある一部分ですねぇ」
 ぼりぼりとチョコを頬張りながら、宰相は返した。口元が冷たく微笑んでいる。彼が言いたいことは、皇帝にも分かった。
「元国王護衛部のやつらか。でも、お前は教育長にしか聞き込みには行ってないだろう」
「……極秘経路です、真っ当な方法だけで宰相にはなれないでしょ」
 うわぁ~。
 皇帝がわざとらしく非難するが、宰相は気にした様子なくニコニコしている。
実際のところ城の者の投票で選ばれる『宰相』になるには、相当な後ろ盾が要る。城の中で根から悪いやつがいたらメイド長や諜報部が気づくだろうと考えているので、皇帝は城内での後ろ盾というものを嫌っていない。
「で?結果的に、武器の持ち出しをした奴は誰だ?」
 
――武器庫から連絡。武器の数が欠けています。
 その一言で動き出した皇帝は、報告を宰相だけに教えた。連絡をした倉庫管理科の男は、悪気は無いことを伝えて第6控え室に閉じ込めている。
 武器庫の鍵は、教育長・騎士と国王護衛部、保安部のみが勝手に使うことができる。騎士はまだ完全な権利を与えられていないので、実際のところは教育長と元国王護衛部、そして保安部だけだ。しかし記録によると借りたのは教育長と保安部長になっている。保安部の部下らは知らないことだが、保安部長はその記録にあった時間、皇帝と会議をしていた。