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第一章 第一話「始まりの茜色」

暖かい春の日、私達は出会った。


暖かい春の風を受けながら私は、いつもの通学路を少し足早に歩いていた。そう、遅刻したのだ。
 私立高校へ推薦で入学して数週間、目だ立つのが苦手な私は目立たない様に生活をしてきた。しかし、遅刻なんかをしてしまえばクラスだけではなく学年全体に広まってしまうだろう。そんなの、嫌だ。友達の一人もいない私を、誰がフォローするだろうか。きっと皆、笑うだけだ。急がなくては、遅刻する前に。
「はぁ、はぁ……あと少し」
階段を一気に駆け上がれば廊下の真ん中あたりに“二年三組”と書かれた表示が見えた。ガラガラっと教室のドアを開けると、まだ先生は来ていないらしくクラスメイト達は朝の他愛も無い会話で盛り上がっていた。だから、たとえこんな時間に来ても誰も私などに目を向けることは無い。
 己の席にドサっと腰を下ろして鞄を机の横に掛けると、一番窓際の一番最後という良い席で隣は居ない。机もなく、私の列だて一個はみ出しているため静かに過ごせる。机に頬杖を付いて何となく教室を見ていると先生が入ってきた。また、一日が始まる。




 夕暮れの光は、学校を茜色に染め上げていた。今日は掃除当番に当たっていたらしく、すっかり忘れて帰ろうとしていた私は、ゴミ捨ての役割を当てられた。皆、このゴミ捨ては嫌いらしい。何でも「超ー、汚くなる」とか。
 ゴミ箱を抱えて中庭へ来ると“燃えるゴミ”と書かれた大きなゴミ箱に中身を捨てる。確かに、嫌な臭いはする。きっと、生ゴミか何かだろう。
「これで……全部、かな」
中身を確認すると小さな溜息を零して校舎へと戻る。しばらくして、ゴミ捨てにだいぶ時間を使ってしまったのを思い出すと私は駆け出す。皆に迷惑を掛けているかもしれない。走るのは慣れないが、頑張って全速力。
「ごめんねっ! 遅く、なって……」
 勢い良く教室のドアを開けて謝ったが、教室には誰も居なかった。皆、帰ったのだろう。ゴミ箱を所定位置に戻して、鞄を持つと教室を出て茜色に染まり、静かな廊下を一人歩く。静かな廊下は、落ち着く。安心できる。でも、“違う”。

≪嗚呼、また貴方ですか……≫

 広い一階建ての古い和風な家にいつも一人で、面倒くさそうに気だるそうに言うあの低い声。いつも眠そうな目。何処か遠くを見ている様でも、何でも飲み込んでしまいそうな切れ長な黒い瞳。肩までの黒い髪は寝癖なのか、いつも跳ねていている髪。冷たい、でも暖かい言葉が出る薄い唇を持った口。色白で細い身体。毎日美しく柄が変わる着流しで肌が肌蹴ている着物。白くて細い指先で持たれている煙管……
 逢いたい、“彼”に逢いたい。“彼”の隣であの縁側で、学校の話をしたりして笑い合いたい。でも、“彼”は居ない。屋敷の大きな古びた木の門を潜ると、左側にある縁側に居ない。
「何処に行ったの……?」
呟いた私の声は、虚しく儚く学校全体を染める茜色の色に消えていった。
作品名:境界線 作家名:Noise