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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「夢の続き」 第四章 真一郎の死

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「やめろ!言うな。頑張れ!泳げるだろう。こっちまで全力で来い!信夫・・・信夫・・・」
やがて信夫の身体は引き込まれるように流れの中へと沈んでいった。
「今助けに行くから!頑張れ信夫!」
そう叫んで真一郎は川に飛び込んだ。激しい流れのなかで必死に泳いで信夫の姿を探した。どのぐらい経ったのだろう。静かな場所で信夫と二人で座っていた。二人はすっかり大人に変わっていた。

「信夫、助かったんだな。良かった・・・けどお前も俺もなんで大人になっているんだ?」
「真一郎、ここはあの世だ。お前も俺も死んだって言うことだ」
「うそだ!ちゃんと居るじゃないか。ほら、手だって足だってあるぞ」
「見えているだけだ・・・幻なんだよ。大丈夫だ俺について来い。これからは永遠に俺とお前は一緒だ」
「俺には千鶴子や秀和が居る。どうなったんだ?」
「まだ解らないのか!死んだんだ。もう戦争も終わった。日本は負けた。俺は沖縄で死んだ。たくさんの日本人が死んだ、いや殺された。アメリカにじゃないぞ、この戦争を始めた奴らにだ。でももう終わった・・・いまは安らかに暮らせる」
「何を言っているんだ!まだ多くの日本人が必死に戦っているんだぞ」

信夫はにやっと笑った。

「真一郎、戦争は終わったんだ。日本は負けた。降伏したんだ。大東亜共栄圏などという法螺に惑わされて何百万人という人間が無念の死を遂げた。女子供や赤子まで道連れにしたんだ。お前だって、日本軍がやってきた行為を見てそう感じていたんだろう?違うか」
「信夫、じゃあお前は何故沖縄で戦死したんだ?なぜ出征なんかしたんだ」
「未来のためだよ」
「未来?日本のか?」
「そうだ。生きて未来を信じることが出来るように呼びかけるためだ」
「誰にだ?」
「戦争をしている全ての人間にだよ。軍人以外は死ぬべきではないと教えたいんだ」
「それで生きながらえていたのか?」
「変な言い方をするな。生かされていただけだ。死ぬことが怖かったわけではない。目の前で銃を撃ち殺しあって玉砕した多くの沖縄住民を見てきて、俺だけが生き延びたいなどと思うわけがないだろう」
「生きていたんだろう?玉砕せずに?」
「使命だったんだ。このことを伝えるための」
「使命?生き残ることがか?」
「ちがう、後の世の人に戦争の悲惨さと愚かさをはっきりと伝えるためにだ。お前も解っているはずだ。俺と同じであることが」
「俺は千鶴子や秀和のために最後まで戦う」
「残された千鶴子や秀和それに多くの日本人が連合軍に殺されても構わないのか?」
「・・・運命なら従うほかない」
「ばか者!戦争をやめてこれ以上犠牲者を出さないようにすることが俺やお前の役目なんだ。陛下もそう判断されて降伏を決められたんだ」
「陛下が?・・・うそだ」
「うそじゃない。俺を信じろ。もう戦争は終わった。千鶴子や秀和はこれから平和な時代を生きることになる。お前は天国から見守ってやれ」
「伝えたいことがある。千鶴子に謝らないと・・・」
「何をだ?」
「何もしてやれなかったことをだ」
「少しだけだぞ時間は。行って来い」

夢から目が覚めた真一郎はある限りの力を絞って千鶴子に話しかけた。


夏休み最後の日曜日とあって露天風呂は混んでいた。美枝が持参したタオルを前にかけて洋子は温泉に浸かった。

「洋子さん、お湯の中ではタオルは使っちゃいけないのよ。この辺りの温泉はそうするのが礼儀なの」
「はい、すみません・・・初めてこんな温泉に入るものですから、知りませんでした」
「いいのよ、覚えてくれれば」

タオルを縁石の縁に置いて左手で下を隠すようにして洋子は浸かっていた。

「若いっていいわね。うらやましい・・・とっても綺麗な肌ね」
「おばさま・・・恥ずかしいです」
「ううん、自慢していいことよ。色白は七難隠すって言うからね」
「そうなんですか・・・おばさまだってお若く見えますよ」
「いいのよ、無理してくれなくて。それより、昨日は貴史さんとどうだったの?」
「えっ?どうって・・・そのう・・・」
「まあ、先ほどの泊まればいい、って言う勢いはどうしたの?」
「そんな、意地悪言わないで下さい・・・困ります」
「ホホホ・・・純なのね。17歳だものね、まだ。初めてだったんじゃないの?なんとなくそう見えたから」
「はい・・・そうです」
「貴史さんは?」
「同じです」
「何か変わった気持ちになった感じがしない?」
「貴史さんはきっと今より嫉妬するようになるって言いました。私はそれでも構わないって思うんです。でも、もっと好きになる自分の気持ちが怖いと思います」
「初めてお会いしたときからあなたの方が好きなんだなあって感じたから、今はより強くなっているのね。貴史さんはああ見えて結構シャイだから、あなたに辛く当たることがあるかも知れないって思うわ。その事解ってあげてね」
「ありがとうございます。そうですね、母にも同じことを言われました」
「そう、お母様は良くご存知なのね。あなたたちのことが」
「はい、何でも話しますから」

とても良い親子関係だと美枝は感じた。
「出ましょうか、貴史さんが首を長くして待っているかも知れないし」
「そうですね」

予想通りに貴史は二人が出てくるのをいらいらしながら待っていた。

「お待たせしてゴメンなさいね。直ぐに出てきたの?」
「だって熱いんだもん・・・長湯なんて出来ませんよ。何話してたの?長かったですよね」
「そう、あなたと洋子さんの事伺っていたの」
「洋子!話したのか?」
「ええ、お話ししました」
「恥ずかしいじゃないか!何言ったんだよ」
「別に怒られるような事は言ってないよ」
「貴史さん、そんな風に言うもんじゃないですよ。女どうし分かり合えることがあるのよ。ねえ?洋子さん」
「はい!おばさま。貴史は気にしなくていいの」
「その意気ですよ。ハハハ・・・女は強いからお気をつけになってね貴史さん」
「何と言うことだ・・・おばあちゃんといい、佳代さんといい、美枝さんまで洋子の味方なんだから」
「あなたは男だから、我慢しなきゃ。こんな綺麗なお嬢さんとそのう・・・仲良く出来るんですもの。同級生とかで居る?同じぐらいの美人と付き合っている人が・・・」
「俺と洋子は幼馴染なんだからその延長線で来ているんだよ。特に美人って思ったことはないから」
「あら!そんな事言ってはいけませんね。今の言葉は許しませんよ。謝ってください!」
「おばさま、いいんです・・・いつも言われていますから」
「ダメです!思い上がるから」
「解りましたよ!洋子、言い過ぎたよゴメン」
「言えるじゃないの。真一郎さんは千鶴子さんのことをとても素直に愛されていたわ。あなたもそうなさってね。母もそう願っているはずですから」
「おじいちゃんの名前出されては弱いなあ・・・洋子は世界一綺麗だと中学ぐらいの頃から思ってきた。恥ずかしくて言えなかったけど、今は言えるよ」
「貴史・・・ほんとうに?」
「ああ、神に誓って。キスをしたのも早く俺のものにしたいって言う気持ちからだった。綺麗になってゆく洋子を誰にも盗られたくなかったからね」

洋子はやっと貴史の本心を聞いた気がした。美枝のお陰でこうなったことをとても感謝した。