アイロン×アイロン台で801小説
体にアイロンの愛撫を感じる度、アイロン台の肌はやけどしそうなほどの熱を持つ。二人の間に、どちらのものかわからない白く熱い吐息があがる。
だが、アイロンはアイロン台の肌に直に触れることはしない。いつもそうだ。アイロンは洗濯物越しにしか、アイロン台の肌に触れてこない。
「っ…!アイロンさん…もっとちゃんとさわってください…っ!!」
アイロン台はじれったいとばかりに声をあげる。みだらな願いを口にする羞恥心より、快楽への欲望が勝ったようだ。熱くほてったアイロン台の体はもう限界だった。
だが、アイロンはそんなアイロン台の訴えを無視し、彼に直接触れようとはしなかった。そして、冷やかな目つきでアイロン台を見下ろし、こう言い捨てたのだった。
「おまえは馬鹿か。洗濯物がなけりゃ、おまえなんかに触れたりしねえよ。お前の代わりなんて、いくらでもいるんだ。」
アイロン台の瞳が絶望に染まる。覚悟はしていたし、そんなことはアイロン本人が言わなくても分かっていたつもりだった。
だが、アイロン本人の口からその事実を告げられたことは、耐えがたい絶望と悲しみと苦しみとなって、アイロン台の身に襲いかかった。
アイロンが去った後、アイロン台は部屋の片隅で足をたたみ小さくなっていた。悲しみと絶望に耐えつつも、アイロン台は己のアイロンへの思いの強さを感じていた。
どんなにひどい態度を取られても、アイロン台はアイロンから離れることができなかった。
「アイロンさんの存在は、僕にとって生きる意味そのものなんだ…」
アイロン台の瞳から、こらえきれなかった大粒の涙がこぼれおちる。
「アイロンさんがいなくなったら、僕はこの世に存在価値がなくなってしまう…!」
――そう、たとえアイロンにとってのアイロン台がたとえその他大勢であっても、アイロン台にとってのアイロンは、唯一無二の存在、運命の人だったのだ―…。
アイロン台が一人アイロンへの思いに押しつぶされそうになっている時、アイロンもまた一人で、アイロン台のことを考えていた。
「アイロン台…あいつは不思議な奴だ…。」
アイロンはもてる男だった。テーブル、こたつ、床、畳…ありとあらゆる男たちがアイロンを求め、彼と体を重ねていった。テーブルたちはとても有能な男たちだった。アイロンは、彼らのそんなところが好きだった。
そんなアイロンの前に、ある日突然、あらわれた少年がアイロン台だった。
アイロン台は今までの男たちと違い、本当に何もできない存在だった。彼に出来ることはただ一つ、アイロンと体を重ねることだけだった。
それでもアイロンは、アイロン台を見捨てなかった。体の相性が抜群によかったのだ。
アイロン台の体は、まるでアイロンのために作られたかのように、ぴったり彼にフィットした。
――だが、本当にそれだけなのだろうか…?
アイロンは自問自答する。
自分は、本当に体の相性がいいというだけで、アイロン台との関係を絶たないのだろうか?
最近、アイロンは感じていた。アイロン台はアイロンのために、アイロンはアイロン台のために存在してるのではないかと。
アイロンは「運命」なんて安っぽい言葉だと信じてなかった。
だが彼は最近思いつつあるのだ。自分にとってアイロン台は、運命の相手なのではないかと…。
いつまで考えても、その問いへの答えは出なかった。
アイロン台と体を重ねていた時には焼けつくようにほてっていた体は、すっかり冷めきっていた。
おわり
作品名:アイロン×アイロン台で801小説 作家名:knt